あれはふたりだけの秘密にしておきたい。だから何もいわずにいた。

「そうか。みつめ合うほど仲良しになったんだな」
「ん?」

 橋沼はなぜか不機嫌そうで、もしかすると大切な友達が田中と仲良くしていて面白くなかったのかもしれない。

 なんだか可愛いなと、優しい気持ちになる。

「大丈夫。総一さんが一番だから」

 冬弥が一番に思っているのは橋沼なのだから。

「そう、なのか」

 目を瞬かせ、首を傾ける。

 ほんのりと目じりのあたりが赤く染まっていて、嬉しかったんだなと、それが可愛くて頭をなでていた。

「ふ、くすぐったい」

 と首を小さく振り、

「わるい」

 嫌だったかと手を引っ込めると、

「触られるの、嫌じゃないぞ」

 橋沼が首のあたりに顔をおしつけてスンスンと鼻を鳴らす。まるで犬みたいだなと包み込むように腕を回した。

「よい匂いだな」
「柔軟剤じゃねぇのか」
「そうなんだ」

 何故か今は耳のあたりを嗅がれている。さすがにここまではやりすぎだろう。

「ちょっと、総一さん」
「シャンプーは?」
「姉貴の……、んっ」

 橋沼はやめるつもりがないのか。耳に息がかかってゾクっと体がしびれた。

「いい加減に」

 離れてと橋沼のほうへと顔を向ければ、あまりの近さに驚いて目を見開く。

 触れる、そう思った瞬間に橋沼とキスをしていた。

 目の前で起きていることが信じられなくて動けないでいる田中に、抵抗しないからと橋沼はやりたい放題だ。

 角度をかえて、さらに深く入り込もうと唇を強引に開けさせて、舌が入り込むと歯列をなぞり絡まりつく。

「ん、ふぁ」

 なぜ、キスをしている?

 いつものスキンシップだとしたらこれは行き過ぎている。

 田中を無視して続けられる舌での愛撫は思考を止めようとするが、このまま流れてしまったら我に返ったときにどうなってしまうのか。それを思うと怖くて目の奥がツンとなり自然と涙が流れ落ちた。

「意外と泣き虫だな」

 唇から涙の個所へ。柔らかな感触はよほど田中を泣かせたいらしい。

「そういちさんがっ」
「そうだな、いきなりキスをした俺が悪いか」

 ごめんなと、今度は軽めに唇にキスをする。

「もう、なんなんだよぉ」

 今ので涙腺崩壊だ。

 厚い胸板に顔を押し付ければ、太い腕が俺を抱きしめた。

「俺さ、秀次が好きなんだ」

 まさかの告白。しかも耳元で囁かれて熱が一気にこみ上げた。

 絶対にすごい顔をしているだろう。

 涙でぐちょぐちょ、そこに真っ赤な色がプラスされているのだから。

 顔を上げられないでいる田中に、

「困らせてしまったようだな」

 と頭をなでる。

「あたりまえだ。キスだけでキャパオーバーだってぇの!」
「自分のことばかり考えて、気持ちを押し付けてすまない」

 そのとおりだが、橋沼は田中の嫌な一面を知っていても優しくしてくれたし好きになってくれた。

「なぁ、いつから俺のことを?」
「そうだなぁ、確信したのはつい最近だ。でも、出会ってすぐに秀次のことを気に入っていたから、一目ぼれだったのかもしれない。男同士だし、深く繋がりあった友達になるとしても恋愛対象にはならないだろう?」

 たしかに。自分も恋愛対象は女子だ。それならどうして好きになったのか。さらに疑問がわいてくる。

「でもな、男とか関係なく秀次が可愛くてたまらないんだ」
「なっ」

 酷い顔をみせたくなくて顔を隠していたのに。目が合い、橋沼が小さく笑う。

「酷ぇ顔」
「アンタのせいだからな!」

 間髪入れずにいうと橋沼に全身を預けてそのまま床の上へと倒れ込んだ。

「随分と積極的だな」
「押し倒したわけじゃねぇから」

 と身を起こすが、腕を掴まれて再び胸板に顔を押し付ける形となった。

 橋沼の胸の鼓動がすごい勢いで鳴っている。そういう自分も同じくらい激しかった。