「うわ~ん! 感謝するでござる~!」
「タヌキ?」
タヌキのような面相をしたカワイイ獣人は泣きながら小走りに来て、私の足にしがみついた。
いいモフモフ具合だったので、なんか抱き上げる。
「わあ……♪ おっと……あなたなぜチンピラと揉めてましたの?」
すっごいモフ感だった。
エキノコックスなにするものぞ。
城内にいる時点で防疫光膜を通って来てるはずだから、その心配はまずないのだけど。
「コミュニティーに参加してない獣人だからでござるよ!」
「コミュニティー……ですか?」
「マフィアの傘下で商売する獣人の互助会でござる! 毎週、高い上納金を納められる獣人だけがいじめられないでござる!」
「みかじめ料ですね……」
魔王の配下として人類と敵対していたことで獣人への偏見や迫害が少なからず続いている。
魔族との戦争からすでに100年以上経っているが差別意識はいまだ根強く、ボロボロの姿で見かけることが多い。
「恩人、お礼にお団子はいかがでござるか?」
「まあ、ありがたくいただきますわ」
タヌキは私の肩をトンと蹴って、焼き団子屋の屋台に飛び移った。
桶に張った水で手をパチャパチャ洗い、手をふきふき。
桐箱を開けてハケを取り出し、微かに醬油の香りがする調味料の壷にそれをひたした。
「醤油だ……」
「お醤油ご存じでござるか? 故郷ではよく使われている調味料でござるよ。お団子用に砂糖とみりんを少々混ぜているでござるが」
そう言いながらタヌキはテキパキと、炭火で熱した網の上に平らに潰した丸団子の串を並べていき、ハケでひとつひとつ丁寧に醤油を塗っていく。
三つ並んで団子。タヌキはそれを三つもサービスしてくれた。
とても香ばしい良い香りがして、お恥ずかしながらお腹が鳴った。
「お土産用に包んでくれませんこと? お代を払いますのでもう10本追加してくださいませ」
「恩人、毎度ありです!」
私は銀貨を奮発して屋台のスミに置く。
「それと、この辺で醤油とみりんが手に入る場所はありますか?」
「コアラ族のマーチってケチな野郎が扱ってるでござる!」
その名前まずくない?
「タンタンの紹介って言えばあんまりボラれずに済むでござるよ。通りの二つ先の角を左に曲がって、つき当りを左に曲がって、さらにつき当たりで左に曲がってくだされ!」
「左に曲がって……左に曲がって……わかりましたわ」
なんかもっと早く着きそうな道順があるような気がしてならないけど、まあ地元民を信頼しよう。
醤油が手に入るならこの際なんでもいい。
「あなた、タンタンって名前なんですね。私はリスティーナです」
「恩人リスティーナ、悪者のモヒカンを抜いて助けてくれたこと、タンタン忘れないでござる!」
お団子をアイテムボックスに収納してからタンタンと別れ、私はひとまず宿舎に向かう。
醤油は惜しいけど、今度でいい。
二人とも心配しているだろうしな。