「り、リスティーナ・アレクサンド……レベル9999」
 兵の監視塔で三度鑑定をやり直したが、レベルは9999で表示される。
 なんらかのトリックか強力な魔道具の使用を疑われたので女兵士にボディチェックもされたが、結果はシロ。
「そろそろよろしいかしら?」
「は、はい! ご協力感謝いたします!」
 椅子に座って全裸で腕組み足組みする私に、ウサ耳の女兵士は机に額をこすりつけて謝罪した。
 後ろで犬耳の女兵士が恥ずかしそうに両手で目を隠しているが、ばっちり指を開いているので意味はない。

「す、すごいです! 9999レベルなんて神様か魔王様みたいです!」
「うっふっふ……」
 犬耳さん、下手なことを言わんといて。
 私は服にソデを通しながらジト目になる。

 獣人は人類のよき隣人だが、かつては魔王軍旗下にあった戦士である。
 魔王が滅んだ今は支配から解放されて友好的になったが、魔王の名は彼らの間でいまだに畏怖すべきビッグネームなのだ。

「それじゃあ行くわね」
「はい、ありがとうございましたー! わふんっ!?」
 私はストリップの代金とばかりに、去り際に犬耳っ子の尻尾のもっふもふをさらりと撫でてやった。
 敏感なところを撫でられた犬耳っ子は顔を赤くして、耳を伏せてその場にペタンとしゃがみ込む。

「わふぅ~ん……」
「り、リスティーナ様!」
「あはは、ごめんね!」
 怒ったウサ耳っ子が耳をピーンとさせて立ち上がったので、私はさっさと部屋から逃げ出した。


「紹介状を拝見させていただきました。こちらはお返しいたします」
「ありがとう」
 師匠が用意してくれた紹介状には、連邦最大規模のギルドマスターも連名にある。
 私がギルドに登録することを条件に書かせたらしいが、効果は抜群だ。
 魔王級の存在なんて投獄されてもおかしくないのに、簡単に解放してもらえた。

 魔術士の最高峰と謳われる“十指(じゅっし)”の1人に数えられる放浪の天才魔術師。
 そして王都グラド・ギルドのマスターとの連名は身元の証明書として十分すぎる。
 何かあったら師匠達が責任を取らされるので、私もその辺のチンピラ相手にイキッたりしないよう気を付けねばならない。
 気を付けねば……。

「おうおう、なに見てやがるんだ!?」
「気を付けませんと……」
 魔術士学院の宿舎に向かう途中、頭をモヒカンにしたチンピラがエプロン姿の獣人の幼女相手に凄んでいた。
 大きな縞模様の尾を持つ幼女はすでにボロボロの姿で、頭を抱えながらしゃがみ込みぷるぷる震えていたので、私はチンピラの前に立ちふさがる。
「おい、ガキ! ちゃんと話を聞――うがああああああっ!?」
「迷惑をかけないように気を付けませんと……」
 チンピラの腕を引っ張って無理やり頭を下げさせると、モヒカンを鷲づかみにしてむしり取った。 
「な、なにをし――やがああああああっ!?」
「え、なんでしょう?」
「俺の髪を抜くんじゃ――ねうおおおおおおおおおっ!?」
「え、なんでしょう?」
「なんでもない!? なんでないから離し――ておおおおおおおおおっ!!?」   
「なんか誠意が感じられませんわ……」
「すみませんすみません!? 許してくだ――さぐああああああああっ!? 謝ったのになんで抜いたの!?」
「中途半端にちょっとだけ残ってたので……ノリ? もうやめますわ」
 チンピラあらためハゲを解放すると、ハゲは泣きべそをかいて走り去って行く。