「やたー! お姉様すごーい!」
「とーぜん」
 腰に手を当てて無い胸を張っていると、馬車から降りたクルカが全力ダッシュで顔面に飛びついてきた。
 全力で好きをアピールするスタイル、わたくし嫌いじゃありませんことよ。

「なんだ今のは……」
「ファイヤーボールだったよな……?」
 ベルゼバブが動かなくなり、監視塔から魔術士が大勢出て来たのを見てみんなぞろぞろ戻って来る。
 10人くらいの魔術士が幾何学模様の刻まれた魔法陣を展開し、腹這いになってしょぼくれているベルゼバブを取り囲んで鎮静に当たっている。

 使役魔術を複数で分担することで並列処理し、魔術抵抗の高いベルゼバブを数の力で使役している。
 術者がその場にいなくても使役獣は最初に出した指令通りに動いてくれるが、活動の幅はかぎられるし拘束力が弱まるので、暴れ出した蟲を抑えるためにあわてて出張って来たということだ。

「ファイヤーボールって、あんなに威力が出るもんなんだな……」
「すげえぞお嬢ちゃん!」
「まあね」
 初級魔法のファイヤーボールはせいぜいスライムを倒すことしかできない。
 だがレベルMAXの私が発動すれば、むちゃくちゃ手を抜いてすら地獄の業火となる。

「はー、びっくりしたぁ……!」
「ママー、お姉様すごいよ!」
 クルカを追って馬車から出て来たナディア。
 何事にも動じない彼女もさすがにちょっと驚いたようだが、私からぴょんと飛び移ったクルカを抱っこしていつもの柔和な顔に戻る。

「あの……少しよろしいですか?」
「はい」
 これだけの騒動が起きたので、襲われた被害者とはいえ事情を説明する義務が生じる。
 私達は重武装した兵士達に取り囲まれてしまった。

「ベルゼバブが暴走した際に初級魔法を行使して撃退したと聞きました。できればくわしい事情をお聞きしたいので、ご同行願えますでしょうか?」
 馬車の扉にある意匠がうちの家紋である――“十字鉄鎖逆剣”なのを見て連邦貴族だと判断したのだろう、あくまで強制ではなく同行を願い出ている。
「承知しました。後ろの二人は使用人ですが騒動に関係ないので、先に通していただいても?」
「……ではこちらへ」
 兵士はナディア達をチラッと見てからうなづいた。
 私は兵士の乗って来た『魔導クラフト(低空で飛空する魔法の絨毯的な乗り物)』に同乗して詰所へ。

「お姉様ぁ……」
「問題ないから。先に宿舎に行ってご飯食べてて」
「でもぉ……」
 私は自信満々に言ったが、クルカは不安そうな顔。 

「お嬢様は大丈夫だよ。先に行って待ってようね?」
「うん……」
 ナディアに優しく言われて小さくうなづくクルカ。
 心配させたくないから早く戻ってあげたいな。