「お帰りなさ~い」
「ただいま」
リビングの掃除をしていたメイド服のナディアが出迎えてくれる。
貴族が通う宿舎とあって、二階まで吹き抜けの広くて立派な部屋をいただいた。
ゆうに30畳くらいありそうなリビングにはゼブラカラーのテーブルや黒いキルトのソファーが並び、鮮明な映像を映し出す大型テレビジョンではお昼のニュースが放送されている。
天井近くを浮遊する、ラグビーボールに羽の生えた感じの白い魔導機が部屋の環境を維持するために適度な除湿・加湿や空気清浄を行い、家主である私がまばたきすると高感度センサーで瞳孔の収縮を読み取り、部屋のあちこちに設置された魔導照明が輝度を適切に変更する。
「ふんふんふ~ん♪」
楽しそうにお掃除するナディア、背伸びして棚の高いところに手を伸ばしている。
「ふう……」
私はソファに深く座って一休み。
「ちょっとノド乾いたな」
私が指でテーブルを二度タップすると彩色が変更され、流線形のフォルムをした魔導車の広告と一緒にドリンクや軽食のメニューが表示される。
「紅茶かな……」
指で紅茶の文字を往復してなぞると注文が受け付けられた。
「ナディアもなにか飲みますか?」
「お嬢様、お行儀悪いですよぉ~♪」
「ちょっとくらい休ませてよ~」
私がおっさんみたいにソファにぐでっと座り込んでいたので、ナディアが笑顔で注意してくれる。
「で、飲み物は?」
「じゃあ、炭酸飲料をくださいな♪」
「わかりましたわ」
炭酸飲料の文字をなぞって注文したあと、また二回タップして画面を消す。
中世ヨーロッパみたいなうちのド田舎と違って、王都の文明はすごい。ほとんど近未来だ。
最初は私達も驚いて、おもしろがって意味もなくあちこちいじって遊んだけど、あっという間に慣れて使いこなしている。
もうこれなしの生活は考えられないな。
「クルカはまだ帰ってないのかぁ……」
クルカは他の学舎で一生懸命お勉強中。
いっぱい勉強してお姉様のお役に立つんだと可愛いことを言うものだから、お小遣いをたくさん上げてしまった。
願わくばずっとそのまま……もう大きくならないでほしい。
フォンフォン。
テーブルから先触れを示す音が短く鳴り、私に会いたがっている人がいるという報せが届く。
タップすると画面が変わり、少女のバストアップ写真と名前が表示される。
三年生の大公家長女・『サーハイン・ミズガルド』。
「誰……?」
サーハイン先輩に面識がない私は首をひねった。
痩せてて顔色が悪くて目に濃い隈があって、弱々しい印象しかない。見ていて哀れすら感じる。
「大公家のご令嬢が私ごときになんのご用が?」
格上も格上なので私から赴くのが礼儀だけど、お相手はこちらの部屋を指定しているので、私はサーハイン先輩の来訪を承認して、ナディアに部屋に籠っているよう命じる。
「来訪は一時間後か……着替えた方がいいかしら?」
制服は式典にもそのまま出れる万能服なので特に失礼はないと思うが、せっかくなので着替えておく。
女の戦闘服――ドレスに。
約束の5分前に部屋の前で気配がした。
サーハイン先輩だろう。考えられないが一人だ。
でも扉の前で立ち止まって、部屋に来る様子はない。
ぴんぽーん。
きっちり時間ぴったりにチャイムが鳴る。
とっくにドアの前で待機していた私は手ずから扉を開け、全力で歓迎を示す。
「と、突然の来訪、赦してもらいたい……。さ、三年の……サーハインだ」
噛みっかみじゃねーか。
サーハイン先輩は私と一度だけ視線を合わせたものの、おどおどしてすぐ目を逸らしてしまった。
制服の先輩はなぜかストレートネックになりそうなほど前傾に立ち、警戒するようにこちらを見ている。
やや青白くすら感じられる色素の薄い肌、肩まである手入れされたキレイな白い髪、ぼっち特有のよどんだ眼が落ち着きなく左右をさまよう。
「ただいま」
リビングの掃除をしていたメイド服のナディアが出迎えてくれる。
貴族が通う宿舎とあって、二階まで吹き抜けの広くて立派な部屋をいただいた。
ゆうに30畳くらいありそうなリビングにはゼブラカラーのテーブルや黒いキルトのソファーが並び、鮮明な映像を映し出す大型テレビジョンではお昼のニュースが放送されている。
天井近くを浮遊する、ラグビーボールに羽の生えた感じの白い魔導機が部屋の環境を維持するために適度な除湿・加湿や空気清浄を行い、家主である私がまばたきすると高感度センサーで瞳孔の収縮を読み取り、部屋のあちこちに設置された魔導照明が輝度を適切に変更する。
「ふんふんふ~ん♪」
楽しそうにお掃除するナディア、背伸びして棚の高いところに手を伸ばしている。
「ふう……」
私はソファに深く座って一休み。
「ちょっとノド乾いたな」
私が指でテーブルを二度タップすると彩色が変更され、流線形のフォルムをした魔導車の広告と一緒にドリンクや軽食のメニューが表示される。
「紅茶かな……」
指で紅茶の文字を往復してなぞると注文が受け付けられた。
「ナディアもなにか飲みますか?」
「お嬢様、お行儀悪いですよぉ~♪」
「ちょっとくらい休ませてよ~」
私がおっさんみたいにソファにぐでっと座り込んでいたので、ナディアが笑顔で注意してくれる。
「で、飲み物は?」
「じゃあ、炭酸飲料をくださいな♪」
「わかりましたわ」
炭酸飲料の文字をなぞって注文したあと、また二回タップして画面を消す。
中世ヨーロッパみたいなうちのド田舎と違って、王都の文明はすごい。ほとんど近未来だ。
最初は私達も驚いて、おもしろがって意味もなくあちこちいじって遊んだけど、あっという間に慣れて使いこなしている。
もうこれなしの生活は考えられないな。
「クルカはまだ帰ってないのかぁ……」
クルカは他の学舎で一生懸命お勉強中。
いっぱい勉強してお姉様のお役に立つんだと可愛いことを言うものだから、お小遣いをたくさん上げてしまった。
願わくばずっとそのまま……もう大きくならないでほしい。
フォンフォン。
テーブルから先触れを示す音が短く鳴り、私に会いたがっている人がいるという報せが届く。
タップすると画面が変わり、少女のバストアップ写真と名前が表示される。
三年生の大公家長女・『サーハイン・ミズガルド』。
「誰……?」
サーハイン先輩に面識がない私は首をひねった。
痩せてて顔色が悪くて目に濃い隈があって、弱々しい印象しかない。見ていて哀れすら感じる。
「大公家のご令嬢が私ごときになんのご用が?」
格上も格上なので私から赴くのが礼儀だけど、お相手はこちらの部屋を指定しているので、私はサーハイン先輩の来訪を承認して、ナディアに部屋に籠っているよう命じる。
「来訪は一時間後か……着替えた方がいいかしら?」
制服は式典にもそのまま出れる万能服なので特に失礼はないと思うが、せっかくなので着替えておく。
女の戦闘服――ドレスに。
約束の5分前に部屋の前で気配がした。
サーハイン先輩だろう。考えられないが一人だ。
でも扉の前で立ち止まって、部屋に来る様子はない。
ぴんぽーん。
きっちり時間ぴったりにチャイムが鳴る。
とっくにドアの前で待機していた私は手ずから扉を開け、全力で歓迎を示す。
「と、突然の来訪、赦してもらいたい……。さ、三年の……サーハインだ」
噛みっかみじゃねーか。
サーハイン先輩は私と一度だけ視線を合わせたものの、おどおどしてすぐ目を逸らしてしまった。
制服の先輩はなぜかストレートネックになりそうなほど前傾に立ち、警戒するようにこちらを見ている。
やや青白くすら感じられる色素の薄い肌、肩まである手入れされたキレイな白い髪、ぼっち特有のよどんだ眼が落ち着きなく左右をさまよう。