大陸を隔てた覇権国家同士で結ばれた連邦は、成立してからまだ数年と日が浅い。
西と南の二人の王は国家運営に対する発言権を返上し、それにともない貴族の権力にも陰りが見え始めていた。
市民による運動も活発化し、時流は民主主義に傾きつつある。
人類の宿敵である魔王が倒れ、尚武の時代は終わりを告げた。
科学と魔術の急速な発展により、それまで想像もつかなかった強大な兵器が次々に生まれ、もはや個の戦力が重用されなくなった昨今、優れた血統――優れた魔力の持ち主こそが民衆を率いるにふさわしいという主張で生まれた階級制度はその存在意義を失いつつある。
実際、魔王を滅ぼしたのは勇者や戦士や魔術士ではなく、最新の軍備がもたらした『質量爆弾』だ。
衛星軌道上を周回する月面への中継ステーションから射出された、5500キログラム超のミスリル円柱弾が多数、炎を尾を引いて難攻不落の魔王の居城に着弾した。
いかに伝説の魔王といえど、隕石弾の直撃に等しい爆撃を連続で食らわせればチリも残らない。
測定レベル9200――人類最強を歯牙にもかけぬ災厄が人の叡智によって滅ぼされた。
魔王討伐後、混乱を避けるため階級制度はその後100年に渡って残り続けた。
既得権益は維持され、貴族達はその間も肥え太ったが、情報技術の発展により平民出の知識階級が多く育ち、とうとう階級制度を疑問視する声が民衆に広まった。
魔術学院はその憂き目を食らい、わずかだが平民を受け入れることになった。
改革の大志を抱き、魔術学院の敷地に足を踏み入れた平民も……ここにひとり。
「レスター・ブランマーシュ――レベル34!」
「おお……」
人類最強が50レベルに対して34レベル。
平民出の少年レスターから計測された数値は人類史に残るものだが、期待したものと違って周囲の反応はイマイチ。
とてつもない化物がレスターよりも先に鑑定したからだ。
「……なんかおもしろくないな」
自慢のスネ夫ヘアーをかき上げてレスターは仏頂面。
若干14歳にして天才と呼ぶにふさわしい実力の持ち主だが、その精神性は年相応である。
いけ好かない貴族どもからいただく〝憧憬(しょうけい)”を夢見てこの学院に来たというのに、台無しにされた。
「今に見てろよ……ボクが世界を変えてやる」
インチキ女のことなど知ったことかと自分に言い聞かせ、レスターはパチンと指を鳴らし火花を散らした。
小規模だが高度な技術を要する無詠唱魔術。
学院に在籍する教師ですら使いこなせるものは数えるほどだろう。
だが期待に足る注目を集めるには間が悪かった。
城壁前で無詠唱ファイヤーボールをぶっぱなし、一面の大地を硝子質に変えてベルゼバブを半死半生にしたという話題のせいで、こちらの反応も微妙だった。
「なあ、今の無詠唱じゃね?」
「おお……そうだったかな?」
「くそ……! なんだってんだよ!」
リスティーナ・アレクサンド……!
不正行為でボクの見せ場を奪ったおまえを、決して許しはしない!
屈辱の怒りに燃えるレスターは、ひそかに勝手に復讐を誓った。
「ふん、平民が」
「汚いツラだな」
学院は建前上平等を掲げている。だから学生食堂では貴族の子も平民の子も一緒。
けど、レスターを見る生徒達の視線はみな冷ややか。
千年以上続けて来た階級による差別を「はいやめます」、とはなかなかいかない。
「おいしゅうございますわ♪」
お肉を口いっぱいに頬張るリスティーナをのぞいて。
西と南の二人の王は国家運営に対する発言権を返上し、それにともない貴族の権力にも陰りが見え始めていた。
市民による運動も活発化し、時流は民主主義に傾きつつある。
人類の宿敵である魔王が倒れ、尚武の時代は終わりを告げた。
科学と魔術の急速な発展により、それまで想像もつかなかった強大な兵器が次々に生まれ、もはや個の戦力が重用されなくなった昨今、優れた血統――優れた魔力の持ち主こそが民衆を率いるにふさわしいという主張で生まれた階級制度はその存在意義を失いつつある。
実際、魔王を滅ぼしたのは勇者や戦士や魔術士ではなく、最新の軍備がもたらした『質量爆弾』だ。
衛星軌道上を周回する月面への中継ステーションから射出された、5500キログラム超のミスリル円柱弾が多数、炎を尾を引いて難攻不落の魔王の居城に着弾した。
いかに伝説の魔王といえど、隕石弾の直撃に等しい爆撃を連続で食らわせればチリも残らない。
測定レベル9200――人類最強を歯牙にもかけぬ災厄が人の叡智によって滅ぼされた。
魔王討伐後、混乱を避けるため階級制度はその後100年に渡って残り続けた。
既得権益は維持され、貴族達はその間も肥え太ったが、情報技術の発展により平民出の知識階級が多く育ち、とうとう階級制度を疑問視する声が民衆に広まった。
魔術学院はその憂き目を食らい、わずかだが平民を受け入れることになった。
改革の大志を抱き、魔術学院の敷地に足を踏み入れた平民も……ここにひとり。
「レスター・ブランマーシュ――レベル34!」
「おお……」
人類最強が50レベルに対して34レベル。
平民出の少年レスターから計測された数値は人類史に残るものだが、期待したものと違って周囲の反応はイマイチ。
とてつもない化物がレスターよりも先に鑑定したからだ。
「……なんかおもしろくないな」
自慢のスネ夫ヘアーをかき上げてレスターは仏頂面。
若干14歳にして天才と呼ぶにふさわしい実力の持ち主だが、その精神性は年相応である。
いけ好かない貴族どもからいただく〝憧憬(しょうけい)”を夢見てこの学院に来たというのに、台無しにされた。
「今に見てろよ……ボクが世界を変えてやる」
インチキ女のことなど知ったことかと自分に言い聞かせ、レスターはパチンと指を鳴らし火花を散らした。
小規模だが高度な技術を要する無詠唱魔術。
学院に在籍する教師ですら使いこなせるものは数えるほどだろう。
だが期待に足る注目を集めるには間が悪かった。
城壁前で無詠唱ファイヤーボールをぶっぱなし、一面の大地を硝子質に変えてベルゼバブを半死半生にしたという話題のせいで、こちらの反応も微妙だった。
「なあ、今の無詠唱じゃね?」
「おお……そうだったかな?」
「くそ……! なんだってんだよ!」
リスティーナ・アレクサンド……!
不正行為でボクの見せ場を奪ったおまえを、決して許しはしない!
屈辱の怒りに燃えるレスターは、ひそかに勝手に復讐を誓った。
「ふん、平民が」
「汚いツラだな」
学院は建前上平等を掲げている。だから学生食堂では貴族の子も平民の子も一緒。
けど、レスターを見る生徒達の視線はみな冷ややか。
千年以上続けて来た階級による差別を「はいやめます」、とはなかなかいかない。
「おいしゅうございますわ♪」
お肉を口いっぱいに頬張るリスティーナをのぞいて。