そもそも、わたしと凪都が話すようになったのは去年――、一年生の終わりのころだった。

 冬の陽が落ちる間際のことで、わたしはコンビニから寮へ帰る途中だった。あたりは暗かったけど、橋の欄干に凪都が座っている様子が、はっきりと見えたんだ。川を見つめて、足をぶらぶらさせて。

 わたしの目には、凪都がそのまま冷たい川へ消えていこうとしているように見えた。

 一瞬で、背筋に寒気がはいのぼった。心臓が凍ったみたいに冷たくなって、それなのに鼓動は速く打つ。

 死ぬの? なんで? どうして?

 だめだ、それはだめ。止めなきゃ……!

 固まりそうになっていた足を無理やり動かせば、足がもつれた。それでも必死に走り寄って、腕をつかむ。

「待って!」

 目を見開く凪都と、視線が交わった。

 このとき、わたしたちは別々のクラスだったけど、凪都の容姿は目立つから、彼の顔を覚えていた。だけど、目立たない女子生徒でしかないわたしのことを、凪都は知らなかったらしい。

「だれ?」

 彼は、首をかしげた。口もとには乾いた笑みが浮かんでいて、ぞっとした。

「死んじゃ、だめです」
「……べつに、死のうとしたわけじゃないけど」

 海に沈んでいく夕陽が、最期の光を放って、消えていく。

「俺、べつに自殺したいわけじゃないから」

 それでも、わたしは凪都の手を放すことができなかった。そうしたら、彼は肩をすくめて、諦めたみたいに息をつく。

「消えたいのは本当だけど、自殺は望んでない。できれば、病死とかがいいんだよね。だれのせいでもなくて、死ぬのは運命でした仕方ないね、って、そんなのがいい」

 やっぱり、手を放さなくてよかったと思った。指先に力がこもる。

「病気も、だめです」
「えー……、そっか。まあとにかく、いまは死なないから大丈夫」

 うそつき。そんな暗いひとみをしているくせに。

 三芝凪都は、死にたがりだ。うそつきだ。