第六章「彩ができた世界」

 「せーんぱーい」
 「お疲れ様、知佐人ー」
 「やっと終わりましたねぇ〜文化祭ぃ〜」
 知佐人は疲労MAXのようで、いつものようなシャキッと感がなくなってふやけていた。
 「はい。これ。」
 そういって僕は知佐人にサイダーを渡す。
 「いいんすか⁉︎先輩⁉︎」
 「当たり前じゃん。文化祭の始まる一ヶ月も前から、色々小説の添削とか、場所の確保、装飾とかいっぱいして貰っちゃったから、こちらがもっと感謝を伝えないといけないのに。」
 「そんな事ないですよー。そもそも主役は晴くんのほうなんですから」
 「それもそう…なのか?でも知佐人が言ってくれなかったら、ここまで続けられなかったよ。」
 「そうですかね?って先輩、そろそろ終わりのキャンプファイヤーとかありますけど参加します?」
 「いや、いいかな。お互い疲れてるでしょ?だから、上で見ておこうよ。」
 「良いですね!」
 文化祭はなかなかに盛り上がって、お互いはしゃぎすぎた。
 初めて文化祭を誰かと回れてとても嬉しい上に、こんなに楽しいものだったのかと気づけた。やっぱりあの時、知佐人が僕に話しかけてもらえたのは本当に奇跡で感謝している。

 ガチャリと屋上の扉をひらけると。秋の風がヒューと差し込んだ。
 外はいつのまにか寒くなっていた。
 グラウンドの真ん中でキャンプファイヤーが始まったのだろうか、生徒の声とオレンジ色の光が僕の目に反射した。
 「終わっちゃいましたね。文化祭。」
 「あぁ、終わっちゃったな。でも、今日は色々な事が知れた。」
 「例えば何ですか?」
 「まさかなぁー知佐人が『華道部』だとは思わなかったな。」
 「……いつかは言おうと思ったんですぅー」
 「ごめんごめん、でも文化部のイメージが無かったからさ、だからなんだろ?ギャップ萌え?みたいな感じで、凄い良かった。」
 初日、知佐人を待つ前に、暇だったからふらっと寄った華道部の教室行って生花を見てると、まさかそこに「雨降 知佐人」のネームプレートがあると思わなかった。てっきり帰宅部だと思っていたので、あの時の衝撃は二日たった今でも鮮明に覚えている。
 「でも、知佐人の生けてる花。素人だからあんまり大口言えないけど、凄い綺麗だったな」
 「ほんとですかぁー?まぁでもこれを機に知ってもらえて嬉しいっす。」
 そんな会話をしていると急に知佐人が叫んだ。
 「あ!流れ星!せんぱい!せんぱい!流れ星ですよ!」
 知佐人は無邪気に流れ星を僕に伝えてくれた。
 「おぉ…凄いね。僕初めて見たかも知れない…」
 今日は流星群がやってくる日だったらしい。
 群青色に染まった空に煌びやかな星が通過していく。
 「せっかくこんだけあるなら願い事とか簡単に願えそうですね!」
 「あぁーそうだな。じゃあ願うか!」


 数秒間沈黙が続いた。願いが伝えられ、知佐人の方を見つめてると、知佐人はまだ熱心に祈っていた。

 願い事が終わったのか知佐人はふいにこちらを向いた。
 「願い事何にしたんですかー?」
 「教えなーい。そーゆー知佐人こそなに願ったの?」
 「俺かって教えませんっ!先輩が教えてくれたら教えよっかなー」
 「僕の方が先輩だ、だから教えてくれていいよな?」
 「それを引き合いにして聞いてくるのめっちゃダサいっすね」
 「うるせぇ!早く教えて!」
 「…言ったたら晴くんも教えてくださいね?
 僕は…か、彼女ができますようにって願いました…」
 と、知佐人は頬を赤ながら、僕に言ってくれた。

 「うわーすごーい。いいねがいごとだー」
 「ちょちょ先輩⁉︎めっっちゃ棒読みじゃないですか?ね⁉︎」
 「いやいやそんなことないよ?」
 むぅーとした表情で知佐人は僕を睨みつけた。
 「…ところで先輩はどんな願い事にしたんですか?」
 「僕はね……教えなーい!」
 そう言って僕はすぐさま、知佐人から逃げた。
 「晴くん⁉︎ちょっとずるいですって!おい待てや晴ー!」
 そう言って僕らは満点の星空の下、ずっと戯れあっていた。




 ––––––––––僕の願い事はこれしか見つからなかった。


    

 ただ、知佐人が元気でいてくれる。それだけだ。
    大好きだぜ。知佐人。