第五章「雨と晴」
拳が僕の頬に飛んできた。でも当たった感触はなかった。
目の前には、「雨降」が居た。頭から倒れて。
「雨降くん!」なんで。なんで君がいるんだ。
雨降はスクッと立ち上がった。
「晴くんに何してんすか…?」
「は?誰お前?」
「晴くんを傷つけんじゃねぇよ!」
そう言って雨降は島田にパンチを食らわせて、食い返されて。
「雨降くん…もういいよ…大丈夫だから…。」
その場はもみくちゃになった。10分後やっと先生がやってきてなんとか幕を閉じたが、お互いボロボロで、血も出ている様子だった。
僕がトリガーになっただけで、大切な人も傷つけてしまった。
「雨降…くん。ごめんなさい。僕のせいで。」
「いや大丈夫っすよ。」そう言い残して2人は先生に連れて行かれた。
だんだん怖くなった僕は、その場所から離れて、走ってバス停へと向かっていた。
ドクドクと心臓の鼓動が止まない。
あの場所に居ておくべきだったのだろうか。そんな疑問が浮かんでしまった。
逃げてしまって良かったのだろうか。
バスがやってきて、乗車しても心臓の暴走は止まらなかった。
その夜。僕は眠気なんて感じなかった。ただ、あの時、自分はどんなことができたのだろうか–––––。いや、どんなことができなかったのだろうか。ただ自分の非を考えていた。
時刻は3時をすぎているだろうか。意識もやっと朧げになり始めて、ようやく「睡魔」というものがやってきた。朧げながら自分について考えた。
自分は、弱虫で。
自分は臆病で。
自分は、無力で。
自分は、自分は…。
“自分は、最低だ”
急に僕の目は開いた。
どうしようもない僕は、枕の中に僕の叫び声を詰めて、ベットを叩いて、そして泣いて。
激しい怒りと、悲しみと、言い表せない感情と。
それらが混じった僕はもう僕ではなかった。
生きていてこんなにこんなにも頭より体が動いたことはなかった。
–––––あれからどれほど経っただろうか。
僕はいつの間にか疲れ果てて、パタリと泣き止んで、感情の波も穏やかになった。
今は動くこともできない。当たり前だけど答えは見つからなかった。
なんでこんなことをしたのか、なにが僕をそうさせたのか自分でもわからない。
はっきり言って、自分でも怖くなっていた。
「はぁ…」
疲れ果てて、やっと睡魔が帰ってきた。
–––––あぁ…ごめんよ雨降。
雨降…きつく言ってごめん。
雨降…僕、雨降に「ありがとう」って言ったっけ。言ってなかったらごめんな。
雨降…ごめん…ごめんよ。
––––––––––雨降––––––––––
僕の気持ちはいっぱいだった。
「さぁ。始めるか…」
そんな状態で僕は月曜日を迎えた。
バスはついに東区にやってきた。普段と変わらない雨降が乗ってきた。
真っ先に僕は「雨降くんっ!」と言った。
雨降はびっくりしたような表情でこちらを振り向いた。
「雨降くん、こっちきてくれない…?」僕は席を突きながらそう告げた。
小さく雨降は頷いてこちらにやってきた。席につくなり僕は、
「ごめん。本当にごめんなさい。」僕は深々と頭を下げ続けた。
「先輩…?そんな大丈夫ですから…頭…あげてください…。」
「僕が、島田たちとあんなことしてたから、雨降くんにも迷惑かかっちゃって…。そもそも月曜日にあんな強い言葉で否定しちゃってごめん。」
「いや、先輩は正しいですって。そもそも僕が勝手に文化祭とか早とちりしてしまったのが悪いですし…。」
「でも、でも…。怪我を負わせてしまったのは、結果として僕のせいじゃないか。だから僕が…悪いの…。」
今日。バスで彼を見た瞬間に強い罪悪感が押し寄せた。
彼のクールな姿とは裏腹に、額の方にあざができていた。だから、より一層罪悪感が強くなってしまった。
僕は無意識のうちにまた頭を下げていた。
「晴くん!」
はっとした。急に自分の名前を呼ばれて頭が上がる。
「考えすぎですよ。『お互い悪かった』これでいいんですよ。僕はあの時、晴先輩を守れて嬉しいっすよ。」
「雨降くん…」そう僕がいうと雨降はクスッと笑った。
「どうしたの?」
「いや、先輩なのにいっつも俺のこと『くん』呼びだし、苗字で読んでるっすから、なんかぎこちない感じで、つい笑っちゃったっす。逆に俺は水野先輩のこと晴くんって呼んでいいですかね…?」
「あ、あぁいいよ。というか別に水野とか晴とかなんて呼んでもらっても大丈夫だよ。」
「い、いやぁそんなすぐに言えるかなぁ…。っていうか、先輩も僕のこと下の名前で呼んでくださいよっ!」
「え、えーっと………。」
「知佐人です…もう忘れてるじゃないっすかっ!」雨降は半笑いで怒りながらも言った。
「ち、知佐人くん。」
「君もいりませんー。」
「は、はい。『知佐人』……そういやなんの話してたんだっけ。」
「そういえば俺も忘れちゃいました!でもやっと先輩が俺の名前呼んでもらえて嬉しいっすわ。…名前忘れられてたのはちょっとショックでしたけどー。」
「ごめんよ、ずっと雨降って呼んでたから、忘れてた。そもそも知佐人なんて一回くらいしか聞いたことないんじゃない…?」
「そうでしたっけ?まぁいいです。その代わり僕のわがまま聞いてくださいね。」
「な、何?」
「今日の昼。一緒にご飯食べてください。」“えっへん”というかのように、高々に知佐人はつぶやいた。
「う、うんいいよ。」
「それともう一つ。連絡先交換してもらえませんか?いつもこんな感じでバッタリ会ってでしか話さなかったじゃないですか。だから交換しませんか?」
「うん。もちろんいいよ。」そう言って僕はスマートフォンを出して、すぐに僕と知佐人は繋がった。
そうこうしているとバスは学校についていた。
途中の道、下駄箱、お互い別れるギリギリまで知佐人と一緒にいることができた。
4限が終わって少しすると「ピコン」っと通知音がなった。
想像通り知佐人からだった。
「今日の昼食中庭で食べます?それとも屋上とか、そこらへんで食べますか?」
「屋上がいいかな。実は一年通ってるけど行ったことないんだよね。」
「そうなんですか⁉︎じゃあ屋上行きましょーっ!僕、屋上前の階段で待ってますね!」
僕は足早に屋上へと向かった。
「お待たせ知佐人。」
「おぉ。なんか分かっててもですけど、急に下の名前で呼ばれると照れますね。」
「じゃあ雨降君って呼ぼうか?」
「嘘です嘘ですっ!知佐人って呼んでください!」
「分かったよ。仕方ないなぁ。」
初めて屋上へ入る。
「おぉーすごい景色ですね!」
街が一望出来てすごく綺麗だった。
屋上に行くのが意外とめんどくさいルートというのもあってか、屋上は誰もいなかった。
屋上には二つほどポツンと置かれたベンチがあるだけだった。
「じゃー食べますか!」
そう言って僕たちはお互いのお弁当を出して、「先輩のお弁当美味しそうですね!」だったり、「知佐人のも美味しそうだね」だったり、色々他愛のない会話をしていた。
「そうそう水野先輩。文化祭の小説の話、あったじゃないですか。結局あれやらないことにしたんですか?自分から言っておいて失礼な話なんですけど。」
「あれね。あの時は正直、冷静じゃなくてああ言っちゃったけど、どんなに罵倒されてもいいからやってみたいかもしれない…って感じ。まだ結構迷ってるんだけどね。」
「あの…あの時ほんとに失礼なこと言っちゃったって後から思ったんっす。そもそも自分が作ったこともないのに勝手に指図してしまって…。だから。俺この土日で作って見たんすよ。もちろん素人なんで中身も適当であんまり面白くないと思いますけど…。よかったら読んでもらえませんか…?」
「そ、そうなの?すごいね。ぜひ読んでみたい。」
知佐人から送られてきた本は1000文字程度のいわゆるショートショートに当たる小説のようだ。中身も、プロのものと比較するとなかなかに構成が違う。僕が言えることではないけれども。
でもその中で『ソーダのような羊雲』だったり『絵の具を垂らしたような夕焼け』だったり、なかなかに面白い表現で表して凄かった。
内容は面白い…!と言えるわけではないけれども、表現だったり、筋が通っているので文章として成立していた。
「どうですか…?」
「凄いね。めちゃくちゃ表現が面白い。僕が上に立って言えることじゃないけれど、ほんとに面白い表現だよ。」
「ありがとうございます!作ってみて意外と難しいっすけど、めちゃくちゃ楽しくないってわけじゃなかったっす!」
さて次は僕の番だ。
「実は僕も作ってきてるんだ。もう少しでお昼終わっちゃうから、また後でどうだったか教えて欲しい。とりあえず送っておくね。」
「そうなんですか⁉︎頑張って読むんで、ちょっと待っててくださいね!」
そういって僕らの昼休みは終わった。
下校の時も知佐人は一緒だった。
「知佐人。俺、文化祭出してみようと思う。」
「急ですね!どうしてそう思ったんですか?」
「知佐人が僕のために作ってもらってすごく元気が出た。だから、僕も出して、見てもらえればだけど、見てもらえた人に元気が出るような、そんな形にしたいと思ったの。」
「いい理由ですね…!そうと決まったら、色々準備しましょう!」
「そうだね。まずは何から決めるべきだろう。」
「名前から決めませんか?本名だとまたあいつらに何されるかわかんないですし…。」
「それね、もう決めてあるんだ。」
「え…!どんな名前なんですか?」
「『雨降 晴』結構そのまんまなんだけど自分はこれが良いって思ってる。」
「えーでもそれだと雨降ってんのか晴れてんのかわかんないっすよ。」
「ううん。僕はね、『雨が降ってもそれに負けないくらい晴れていたい。』みたいな意味を込めてる。だからこの名前がいいの。どうかな…」
「凄い…!そう言われたらいい名前ですね!」
「まぁ名前が被ったのは『奇跡』だけどね」
「じゃあこれから文化祭の準備するか!知佐人!」
「おー!頑張りましょうね晴先輩!」
–––––そう言って僕の新しい学校生活が始まった。
拳が僕の頬に飛んできた。でも当たった感触はなかった。
目の前には、「雨降」が居た。頭から倒れて。
「雨降くん!」なんで。なんで君がいるんだ。
雨降はスクッと立ち上がった。
「晴くんに何してんすか…?」
「は?誰お前?」
「晴くんを傷つけんじゃねぇよ!」
そう言って雨降は島田にパンチを食らわせて、食い返されて。
「雨降くん…もういいよ…大丈夫だから…。」
その場はもみくちゃになった。10分後やっと先生がやってきてなんとか幕を閉じたが、お互いボロボロで、血も出ている様子だった。
僕がトリガーになっただけで、大切な人も傷つけてしまった。
「雨降…くん。ごめんなさい。僕のせいで。」
「いや大丈夫っすよ。」そう言い残して2人は先生に連れて行かれた。
だんだん怖くなった僕は、その場所から離れて、走ってバス停へと向かっていた。
ドクドクと心臓の鼓動が止まない。
あの場所に居ておくべきだったのだろうか。そんな疑問が浮かんでしまった。
逃げてしまって良かったのだろうか。
バスがやってきて、乗車しても心臓の暴走は止まらなかった。
その夜。僕は眠気なんて感じなかった。ただ、あの時、自分はどんなことができたのだろうか–––––。いや、どんなことができなかったのだろうか。ただ自分の非を考えていた。
時刻は3時をすぎているだろうか。意識もやっと朧げになり始めて、ようやく「睡魔」というものがやってきた。朧げながら自分について考えた。
自分は、弱虫で。
自分は臆病で。
自分は、無力で。
自分は、自分は…。
“自分は、最低だ”
急に僕の目は開いた。
どうしようもない僕は、枕の中に僕の叫び声を詰めて、ベットを叩いて、そして泣いて。
激しい怒りと、悲しみと、言い表せない感情と。
それらが混じった僕はもう僕ではなかった。
生きていてこんなにこんなにも頭より体が動いたことはなかった。
–––––あれからどれほど経っただろうか。
僕はいつの間にか疲れ果てて、パタリと泣き止んで、感情の波も穏やかになった。
今は動くこともできない。当たり前だけど答えは見つからなかった。
なんでこんなことをしたのか、なにが僕をそうさせたのか自分でもわからない。
はっきり言って、自分でも怖くなっていた。
「はぁ…」
疲れ果てて、やっと睡魔が帰ってきた。
–––––あぁ…ごめんよ雨降。
雨降…きつく言ってごめん。
雨降…僕、雨降に「ありがとう」って言ったっけ。言ってなかったらごめんな。
雨降…ごめん…ごめんよ。
––––––––––雨降––––––––––
僕の気持ちはいっぱいだった。
「さぁ。始めるか…」
そんな状態で僕は月曜日を迎えた。
バスはついに東区にやってきた。普段と変わらない雨降が乗ってきた。
真っ先に僕は「雨降くんっ!」と言った。
雨降はびっくりしたような表情でこちらを振り向いた。
「雨降くん、こっちきてくれない…?」僕は席を突きながらそう告げた。
小さく雨降は頷いてこちらにやってきた。席につくなり僕は、
「ごめん。本当にごめんなさい。」僕は深々と頭を下げ続けた。
「先輩…?そんな大丈夫ですから…頭…あげてください…。」
「僕が、島田たちとあんなことしてたから、雨降くんにも迷惑かかっちゃって…。そもそも月曜日にあんな強い言葉で否定しちゃってごめん。」
「いや、先輩は正しいですって。そもそも僕が勝手に文化祭とか早とちりしてしまったのが悪いですし…。」
「でも、でも…。怪我を負わせてしまったのは、結果として僕のせいじゃないか。だから僕が…悪いの…。」
今日。バスで彼を見た瞬間に強い罪悪感が押し寄せた。
彼のクールな姿とは裏腹に、額の方にあざができていた。だから、より一層罪悪感が強くなってしまった。
僕は無意識のうちにまた頭を下げていた。
「晴くん!」
はっとした。急に自分の名前を呼ばれて頭が上がる。
「考えすぎですよ。『お互い悪かった』これでいいんですよ。僕はあの時、晴先輩を守れて嬉しいっすよ。」
「雨降くん…」そう僕がいうと雨降はクスッと笑った。
「どうしたの?」
「いや、先輩なのにいっつも俺のこと『くん』呼びだし、苗字で読んでるっすから、なんかぎこちない感じで、つい笑っちゃったっす。逆に俺は水野先輩のこと晴くんって呼んでいいですかね…?」
「あ、あぁいいよ。というか別に水野とか晴とかなんて呼んでもらっても大丈夫だよ。」
「い、いやぁそんなすぐに言えるかなぁ…。っていうか、先輩も僕のこと下の名前で呼んでくださいよっ!」
「え、えーっと………。」
「知佐人です…もう忘れてるじゃないっすかっ!」雨降は半笑いで怒りながらも言った。
「ち、知佐人くん。」
「君もいりませんー。」
「は、はい。『知佐人』……そういやなんの話してたんだっけ。」
「そういえば俺も忘れちゃいました!でもやっと先輩が俺の名前呼んでもらえて嬉しいっすわ。…名前忘れられてたのはちょっとショックでしたけどー。」
「ごめんよ、ずっと雨降って呼んでたから、忘れてた。そもそも知佐人なんて一回くらいしか聞いたことないんじゃない…?」
「そうでしたっけ?まぁいいです。その代わり僕のわがまま聞いてくださいね。」
「な、何?」
「今日の昼。一緒にご飯食べてください。」“えっへん”というかのように、高々に知佐人はつぶやいた。
「う、うんいいよ。」
「それともう一つ。連絡先交換してもらえませんか?いつもこんな感じでバッタリ会ってでしか話さなかったじゃないですか。だから交換しませんか?」
「うん。もちろんいいよ。」そう言って僕はスマートフォンを出して、すぐに僕と知佐人は繋がった。
そうこうしているとバスは学校についていた。
途中の道、下駄箱、お互い別れるギリギリまで知佐人と一緒にいることができた。
4限が終わって少しすると「ピコン」っと通知音がなった。
想像通り知佐人からだった。
「今日の昼食中庭で食べます?それとも屋上とか、そこらへんで食べますか?」
「屋上がいいかな。実は一年通ってるけど行ったことないんだよね。」
「そうなんですか⁉︎じゃあ屋上行きましょーっ!僕、屋上前の階段で待ってますね!」
僕は足早に屋上へと向かった。
「お待たせ知佐人。」
「おぉ。なんか分かっててもですけど、急に下の名前で呼ばれると照れますね。」
「じゃあ雨降君って呼ぼうか?」
「嘘です嘘ですっ!知佐人って呼んでください!」
「分かったよ。仕方ないなぁ。」
初めて屋上へ入る。
「おぉーすごい景色ですね!」
街が一望出来てすごく綺麗だった。
屋上に行くのが意外とめんどくさいルートというのもあってか、屋上は誰もいなかった。
屋上には二つほどポツンと置かれたベンチがあるだけだった。
「じゃー食べますか!」
そう言って僕たちはお互いのお弁当を出して、「先輩のお弁当美味しそうですね!」だったり、「知佐人のも美味しそうだね」だったり、色々他愛のない会話をしていた。
「そうそう水野先輩。文化祭の小説の話、あったじゃないですか。結局あれやらないことにしたんですか?自分から言っておいて失礼な話なんですけど。」
「あれね。あの時は正直、冷静じゃなくてああ言っちゃったけど、どんなに罵倒されてもいいからやってみたいかもしれない…って感じ。まだ結構迷ってるんだけどね。」
「あの…あの時ほんとに失礼なこと言っちゃったって後から思ったんっす。そもそも自分が作ったこともないのに勝手に指図してしまって…。だから。俺この土日で作って見たんすよ。もちろん素人なんで中身も適当であんまり面白くないと思いますけど…。よかったら読んでもらえませんか…?」
「そ、そうなの?すごいね。ぜひ読んでみたい。」
知佐人から送られてきた本は1000文字程度のいわゆるショートショートに当たる小説のようだ。中身も、プロのものと比較するとなかなかに構成が違う。僕が言えることではないけれども。
でもその中で『ソーダのような羊雲』だったり『絵の具を垂らしたような夕焼け』だったり、なかなかに面白い表現で表して凄かった。
内容は面白い…!と言えるわけではないけれども、表現だったり、筋が通っているので文章として成立していた。
「どうですか…?」
「凄いね。めちゃくちゃ表現が面白い。僕が上に立って言えることじゃないけれど、ほんとに面白い表現だよ。」
「ありがとうございます!作ってみて意外と難しいっすけど、めちゃくちゃ楽しくないってわけじゃなかったっす!」
さて次は僕の番だ。
「実は僕も作ってきてるんだ。もう少しでお昼終わっちゃうから、また後でどうだったか教えて欲しい。とりあえず送っておくね。」
「そうなんですか⁉︎頑張って読むんで、ちょっと待っててくださいね!」
そういって僕らの昼休みは終わった。
下校の時も知佐人は一緒だった。
「知佐人。俺、文化祭出してみようと思う。」
「急ですね!どうしてそう思ったんですか?」
「知佐人が僕のために作ってもらってすごく元気が出た。だから、僕も出して、見てもらえればだけど、見てもらえた人に元気が出るような、そんな形にしたいと思ったの。」
「いい理由ですね…!そうと決まったら、色々準備しましょう!」
「そうだね。まずは何から決めるべきだろう。」
「名前から決めませんか?本名だとまたあいつらに何されるかわかんないですし…。」
「それね、もう決めてあるんだ。」
「え…!どんな名前なんですか?」
「『雨降 晴』結構そのまんまなんだけど自分はこれが良いって思ってる。」
「えーでもそれだと雨降ってんのか晴れてんのかわかんないっすよ。」
「ううん。僕はね、『雨が降ってもそれに負けないくらい晴れていたい。』みたいな意味を込めてる。だからこの名前がいいの。どうかな…」
「凄い…!そう言われたらいい名前ですね!」
「まぁ名前が被ったのは『奇跡』だけどね」
「じゃあこれから文化祭の準備するか!知佐人!」
「おー!頑張りましょうね晴先輩!」
–––––そう言って僕の新しい学校生活が始まった。