※グロ注意です。



   💭   🔁   ❤×?850



 種田と江口さんの事は警察に通報するとして、猫目高校2年生の修学旅行は続く。
 見た感じ、どうも4組以外には『呪い』や相次ぐ開始について知らされていないらしい。
 もちろん昨日以前に死んだ人たちの事は散々ウワサになっていたけど、長々くん、種田、江口さんの事をウワサする声は聞こえなかった。

 そうして、今。
 僕らは某企業の製鉄所の工場見学をしている。
 折角の修学旅行なのに工場見学なんて、と不平不満を言う他クラスに反して、2年4組の面々は概ね好意的だ。

【映えの権化】蝿塚「映える動画獲れるかなぁ!?」社内での撮影は禁止、という社からの指示なんて何のその、スマホ片手に興味津々といった様子で工場内を歩き回っては、『列に戻りなさい』と古井戸先生に叱られている。

 他の面々も似たようなものだ。

 堂々としているのは、いいねに余裕がある組――
【セミプロダンサー】舞姫さん、
【コスプレイヤー】越古(こしふる)さん、
【陽キャリーダー】蹴鞠くん、
【お料理YouTober】米里(こめざと)くん、
 そして圧倒的安定度を誇る『サブカル女子組』の、
【神絵師】上江さん、
【801】八坂さん、
【四コマ】四谷さん。

 そう言えば、【写真家】写楽さんと【登山部】山野くんの姿が見えない。

【映えの権化】蝿塚「うわぁ凄い! アレ、鉄!? 鉄!?」

 蝿塚さんがスマホを剥けるその先には、ドロドロに溶けた鉄を(たた)える大きな桶と、その上の足場を危なっかしく歩く――

【陽キャリーダー】蹴鞠「州都(シュート)!?」

 フェンスを乗り越えて危険区域に這入り込んだ州都さんが、スマホで以て間近から鉄の流体を撮影している!

「きみ、すぐに戻って来なさい!」案内していた従業員の方が、大慌てで走って行く。向かう先は、フェンスの向こうに続く扉。

【担任】古井戸「州都くん! 馬鹿な真似は止して、戻って来なさい――」

【紅一点】州都「っせぇな! オレはいいねがもう無いんだ! いいねを稼がねえと死んじまうんだぞ!?」足場の先端まで進んで、ますますスマホを真下でぐらぐらと煮立った鉄へ差し向ける。





 ――その時、





【紅一点】州都「あっ――」

 州都が立っていた足場のパネルが、不自然に外れた。

【紅一点】州都「ヒッ――」

 間一髪、州都さんが隣のパネルにしがみ付く。
 外れた鉄のパネルが鉄の湯の中に落ちて行き、ジュッという音とともに飲み込まれていった。

【紅一点】州都「あぁっちぃぃぃぃいいいいいいッ!!」

 飛沫が足に飛んだらしく、州都さんが悲鳴を上げる。
 いいねに余裕が無い組たちが、そんな州都さんに向けて一斉にスマホを翳す。

【紅一点】州都「い、嫌、嫌ぁぁあああぁあああぁああああああッ!! 誰か、誰か助けてくれ――」

 案内役の従業員が、梯子を上って州都さんの元に駆け寄ろうとした、その寸前に。
 州都さんがしがみ付いていたその足場までもが、外れた。酷く不自然に。

 まるで、
  スローモーションのように、
   ゆっくりと、
    州都さんの体が、
     融解した鉄の中に、





      落
       ち

        て


         ゆ



          く
           。





 爪先が、
   鉄の水面に触れ、
         次の瞬間、





 ――ポッ





 と、州都さんの全身が青白い炎に包まれた。
 彼女の体は頭の先までどっぷりと鉄の中に浸かり、それからすぐに、





 ぽーん





 と音でもしそうな勢いで、水面から飛び出してきた。
 鉄は重く、人体は軽い。
 出て来た州都さんには髪も服も皮膚も無く、ただただ真っ黒に焦げ果てた姿をしていた。
 顔はこちらを向いていた、と思う。けど、目鼻口は見つけられなかった。
 州都さんは膝の辺りまで跳び上がったかと思うと、そのまま横倒しになって、青白い煙を発しながら、鉄の湯の上に浮かぶ。
 それきり、動かなかった。

「棒! 回収棒持って来い!!」

 従業員の声を、遠く他人事のように聞く。
 いいねの亡者どもが、少しずつ鉄の中に沈んでいく州都さんの姿を無我夢中で撮影している。

 ふと気付くと、州都さんのアカウントに1分間の動画がUPされていた。
 内容は、たった今、目の前で繰り広げられた光景と、大差無かった。