💭 🔁 ❤×?027
気が付くと、保健室で寝かされていた。
起き上がり、眼帯が無い事に気付いて戦慄する。左目をぎゅっと閉じる。もう、痛みは無い。
「あぁ、良かった」カーテンが開かれ、保健室の先生が入って来た。「体の調子はどうかしら?」
「あの、先生、眼帯は――」
「あぁ、血で汚れていたから捨てたわよ。こんなところじゃ大した診察なんて出来ないんだから、今からでも総合病院に行くべきよ。眼も、頭の方も見てもらわないと。親御さん、じゃなかった、保護者の方に連絡を――」
「先生! ……その、保護者には心配を掛けたくないので」
「……そうだったわね」先生が、新しい眼帯を持って来てくれた。「でも、あんまり遠慮し過ぎるのも考え物よ? 貴方はまだ、高校生なんだから」
「すみません」
眼帯を付け、ようやく一息吐く。
僕は以前にもこの目の事で卒倒した事があり、その時に呼び出された叔母が、酷く取り乱したんだ。
僕は先生に家の事情を話し、今後、僕が倒れても叔母には連絡しないように頼み込んだ。先生は、その願いを覚えてくれていたというわけだ。
「それにしても、どうしたの、貴方のクラス? 女子なんて大半が半狂乱で泣くわ喚くは、貴方以外にも気絶者が何人も居て」
「――――……」
言っても信じないだろう。狂人扱いされて叔父叔母に連絡され、またぞろ僕は安寧の地から追い出される事になる。
「ちょっとSNSで怖い動画があって。悪戯で、その動画がクラス中に拡散したんです」
「あぁ……」先生が、顔色を悪くする。「例の、自殺実況」
先生の口からその単語が出てきた事に、僕は驚く。
――自殺実況。
1ヵ月前だったかもう少し前だったか、YouTobeに投稿され、瞬く間に拡散されて有名になった動画だ。
僕自身、何度も何度も見た。ホラーを書く者として、本物の自殺のシーンは貴重な映像資料だから。
当事者の女子高生による動画告知ツイートは物凄い勢いでいいねと拡散を獲得してる、ってネットニュースで見た事がある。
何度も動画を見ておいて何だけど、あんな動画の告知ツイートを拡散する人の気が知れな……いやいや、止めておこう。
……実は、マイラバーエンジェルの星狩さんも、そのツイートを拡散してたんだよね。それも、何を思ってか固定ツイートにして。
だから、僕は彼女のTwittooを開くのが苦手だ。
けどまぁ、僕だって変な事を呟いたり、変な呟きを拡散する事はある。
企業やタレントや政治家の公式Twittooですら不適切発言で度々炎上するような世の中。拡散1つで相手の人格をとやかく言うべきじゃない。
💭 🔁 ❤×?027
倒れていたのは、30分程度の事だったらしい。
教室に戻ると、1限目だと言うのに、クラスで喧々諤々の議論が繰り広げられていた。
教室の隅では英文法の先生が椅子に座り、憮然とした様子で――怒り半分、困惑半分――クラスの様子を眺めている。
大方、古井戸先生の時みたいに、生徒らに脅されて授業を取り止めさせられたんだろう。でも、『呪い』だ何だは信じられない。とはいえ、生徒たちの真に迫った様子はただ事では無い。そんなところだろう。
相曽さんの席に、彼女の体は無い。
議論の内容を聞くに、彼女は救急車で運ばれていったらしい。
……けど、多分彼女はもう、生きてはいないんだろうな、と思う。だって僕は、この左目で視てしまったから。
眼帯を外したら、今もここに居る彼女の姿を認める事が出来るだろう……。
さっきから、左目がチリチリと痛むんだ。
ゼロになってしまった、いいね……。
1分間の動画……。
恐らく、的場くんも相曽さんも、『呪い』で死んでしまったんだろう。
【パリピの女王】天晴「あーしの所為じゃないあーしの所為じゃないあーしの所為じゃない……」教室の真ん中では、天晴さんが頭を抱えながらぶつぶつと言い続けている。
僕は席に戻り、隣の星狩さんを見る。彼女は今にも泣き出しそうな顔をしている。
「ねぇ、星狩さん」そんな彼女へ、小声で尋ねる。「例のサイトで、2年4組の登録を取り消す事って出来ないかな?」
星狩さんは悲しそうに首を振る。ぱぱぱぱっとスマホに打ち込んで、見せてくれる。
『例のサイト、消えちゃった』
「え……」
星狩さんを疑うわけじゃないけど、僕は『いいね❤ × 1時間 = 余命』のサイト――呪いたいクラスを登録する画面をネットで検索するも、Twittooのアカウント『favo_min』の方がヒットするばかりで、肝心の登録サイトが見つからない。
……それどころか、僕はとんでもない物を見つけてしまった。
【映えの権化】蝿塚「ねぇ、これ、タイトルが『59分』になってる!!」
どうやら蝿塚さんも気付いたらしい。
【セミプロダンサー】舞姫「何? 何の話?」
【映えの権化】蝿塚「みんな、呪いのアカウント開いてみて!」
途端、教室にいるクラスの全員がスマホを覗き込み、そして、絶望の呻き声を上げる。
『いいね❤ × 1時間 = 余命』のアカウント名とヘッダ画像の文字が、『いいね❤ × 59分 = 余命』に変わっていた。
気が付くと、保健室で寝かされていた。
起き上がり、眼帯が無い事に気付いて戦慄する。左目をぎゅっと閉じる。もう、痛みは無い。
「あぁ、良かった」カーテンが開かれ、保健室の先生が入って来た。「体の調子はどうかしら?」
「あの、先生、眼帯は――」
「あぁ、血で汚れていたから捨てたわよ。こんなところじゃ大した診察なんて出来ないんだから、今からでも総合病院に行くべきよ。眼も、頭の方も見てもらわないと。親御さん、じゃなかった、保護者の方に連絡を――」
「先生! ……その、保護者には心配を掛けたくないので」
「……そうだったわね」先生が、新しい眼帯を持って来てくれた。「でも、あんまり遠慮し過ぎるのも考え物よ? 貴方はまだ、高校生なんだから」
「すみません」
眼帯を付け、ようやく一息吐く。
僕は以前にもこの目の事で卒倒した事があり、その時に呼び出された叔母が、酷く取り乱したんだ。
僕は先生に家の事情を話し、今後、僕が倒れても叔母には連絡しないように頼み込んだ。先生は、その願いを覚えてくれていたというわけだ。
「それにしても、どうしたの、貴方のクラス? 女子なんて大半が半狂乱で泣くわ喚くは、貴方以外にも気絶者が何人も居て」
「――――……」
言っても信じないだろう。狂人扱いされて叔父叔母に連絡され、またぞろ僕は安寧の地から追い出される事になる。
「ちょっとSNSで怖い動画があって。悪戯で、その動画がクラス中に拡散したんです」
「あぁ……」先生が、顔色を悪くする。「例の、自殺実況」
先生の口からその単語が出てきた事に、僕は驚く。
――自殺実況。
1ヵ月前だったかもう少し前だったか、YouTobeに投稿され、瞬く間に拡散されて有名になった動画だ。
僕自身、何度も何度も見た。ホラーを書く者として、本物の自殺のシーンは貴重な映像資料だから。
当事者の女子高生による動画告知ツイートは物凄い勢いでいいねと拡散を獲得してる、ってネットニュースで見た事がある。
何度も動画を見ておいて何だけど、あんな動画の告知ツイートを拡散する人の気が知れな……いやいや、止めておこう。
……実は、マイラバーエンジェルの星狩さんも、そのツイートを拡散してたんだよね。それも、何を思ってか固定ツイートにして。
だから、僕は彼女のTwittooを開くのが苦手だ。
けどまぁ、僕だって変な事を呟いたり、変な呟きを拡散する事はある。
企業やタレントや政治家の公式Twittooですら不適切発言で度々炎上するような世の中。拡散1つで相手の人格をとやかく言うべきじゃない。
💭 🔁 ❤×?027
倒れていたのは、30分程度の事だったらしい。
教室に戻ると、1限目だと言うのに、クラスで喧々諤々の議論が繰り広げられていた。
教室の隅では英文法の先生が椅子に座り、憮然とした様子で――怒り半分、困惑半分――クラスの様子を眺めている。
大方、古井戸先生の時みたいに、生徒らに脅されて授業を取り止めさせられたんだろう。でも、『呪い』だ何だは信じられない。とはいえ、生徒たちの真に迫った様子はただ事では無い。そんなところだろう。
相曽さんの席に、彼女の体は無い。
議論の内容を聞くに、彼女は救急車で運ばれていったらしい。
……けど、多分彼女はもう、生きてはいないんだろうな、と思う。だって僕は、この左目で視てしまったから。
眼帯を外したら、今もここに居る彼女の姿を認める事が出来るだろう……。
さっきから、左目がチリチリと痛むんだ。
ゼロになってしまった、いいね……。
1分間の動画……。
恐らく、的場くんも相曽さんも、『呪い』で死んでしまったんだろう。
【パリピの女王】天晴「あーしの所為じゃないあーしの所為じゃないあーしの所為じゃない……」教室の真ん中では、天晴さんが頭を抱えながらぶつぶつと言い続けている。
僕は席に戻り、隣の星狩さんを見る。彼女は今にも泣き出しそうな顔をしている。
「ねぇ、星狩さん」そんな彼女へ、小声で尋ねる。「例のサイトで、2年4組の登録を取り消す事って出来ないかな?」
星狩さんは悲しそうに首を振る。ぱぱぱぱっとスマホに打ち込んで、見せてくれる。
『例のサイト、消えちゃった』
「え……」
星狩さんを疑うわけじゃないけど、僕は『いいね❤ × 1時間 = 余命』のサイト――呪いたいクラスを登録する画面をネットで検索するも、Twittooのアカウント『favo_min』の方がヒットするばかりで、肝心の登録サイトが見つからない。
……それどころか、僕はとんでもない物を見つけてしまった。
【映えの権化】蝿塚「ねぇ、これ、タイトルが『59分』になってる!!」
どうやら蝿塚さんも気付いたらしい。
【セミプロダンサー】舞姫「何? 何の話?」
【映えの権化】蝿塚「みんな、呪いのアカウント開いてみて!」
途端、教室にいるクラスの全員がスマホを覗き込み、そして、絶望の呻き声を上げる。
『いいね❤ × 1時間 = 余命』のアカウント名とヘッダ画像の文字が、『いいね❤ × 59分 = 余命』に変わっていた。