意気消沈して帰ったわたしに桜田から電話がかかってきたのは、市役所を訪問してから2週間後のことだった。
 もう一度話を聞かせてほしいという。
 
 取る物も取り敢えず市役所へ急ぐと、笑顔の桜田が待っていてくれた。
 そして、あのあと提案を熟慮した結果、突飛すぎるからこそ夢開市再生の切り札になるかも知れないと思い始め、検討案の一つに加えることにしたと言った。
 すぐさまわたしは具体的な計画の必要性を説いた。
 すると桜田が頷いて、「どういう学校を、どういう規模で、どういう予算で、いつまでに造るのか、ということですね」と自らに言い聞かせるように言った。
 
「そうです。申請内容が斬新か、ということに加えて、計画や予算に無理がないか、つまり、実現可能性があることを明記する必要があります」

 桜田が続きを促すように頷いたので、具体的なところへ踏み込んだ。

「先ず、スポーツ専門中学校というコンセプトを決定していただく必要があります。その上で規模や候補地等について明記していただくことになりますが、具体的なお考えはありますか?」

「いえ、まだ検討を始める段階ですので、具体的なものは何もありません。しかし、少なくとも全学年で千人規模は想定しておく必要があるでしょうね。もちろん、開校時すぐにその規模にするのは無理なので、小規模、例えば一学年百人程度からスタートして、徐々に増やしていくやり方がいいかもしれないと思っています」

「そうですか。でも最終的に全校で千人規模となるとかなりの敷地が必要となりますが、それを確保することができますか? また、校舎と競技場、トレーニング施設なども必要となりますが、それについても大丈夫ですか?」

「ええ。幸いなことにと言うべきか残念なことにと言うべきかわかりませんが、隣接した中学校と小学校が両方廃校になった場所があるので、そこを使えると思います。しかし、改築や施設の増設をするとなると」

「かなりの予算が必要ですね」

「はい。問題はそこです。人口が減って税収が少なくなった夢開市の財政はとても厳しい状況に置かれています。どうやって予算を捻り出すか、そこが問題です」