顔を綻ばせたオーナーが舌なめずりをするような表情になった。
 
「いいですね、詳しいことは話せませんが、ちょっとだけなら」

 まんまと術中にはまった。
 しかしこんな簡単に物事が進んでいいのだろうか、という思いもあり、ちょっと焦らすように時間を置いた。
 すると、「いつにしますか?」とせっついてきた。
 待ちきれないというのが顔に出ていた。
 
「では、明日にでもいかがですか」

 そして、店の名前を告げた。
 予約が取りにくいことで有名な小料理店だった。
 
「そこは……」

 オーナーの口が開きっぱなしになった。
 驚きを通り越しているようだった。
 それが余りにも狙い通りだったのでおかしくなったが、「では、決まりですね」と念を押してその場を切り上げた。