「家族や知り合いがみんな驚いて、私の周りで話題沸騰ですよ」

 パソコンショップを再訪した弟が大げさに報告した。
 オーナーは、そうでしょう、というような顔で満足げに頷いた。
 
「いや~、本当に素晴らしい。この技術は半端ないですね」

 一気におだて上げると、オーナーは照れることもなくニヤついた。

「これだけの技術があれば、どんな依頼にも応えられますよね」

「まあ、そうですね」

 満更でもないような表情で顎に手をやった。

「一度、いろんな話を聞かせていただけませんか?」

 弟は盃を傾ける仕草をした。
 オーナーは、んっ、というような顔になったが、それが(ほころ)ぶのに時間はかからなかった。
 無類の酒好きというのが顔に出ていた。
 
 それを見た弟は胸の内でほくそ笑んだ。
 オーナーが罠に掛かろうとしていたからだ。
 しかしそれを顔には出さず、オーナーの言葉を待った。
 急いては事を仕損じる、と自分に言い聞かせて。