「このまま手をこまねいているわけにはいかない。被害届を出そう」

 桜田も同じことを考えていた。
 すぐに警察に被害届を出し、そのことを報道各社に伝え、SNSでも発信した。
 しかし、警察は受理したものの初動で(つまず)いた。
 ファックス送信元である夢開中学校を捜査したが、なんの手掛かりも得られなかったのだ。
 
 当初、警察は桜田を嫌う教職員の仕業を疑ったが、桜田に恨みを持つ者は見つけられなかったし、そもそも、ファックスが送信された深夜に外出していた者は誰一人いなかった。
 全員にアリバイがあったのだ。
 しかも、FAX機器から採取した指紋には当然ながら多くの教職員の指紋が付いていたため、犯人を特定するのは困難だった。
 それに、教職員以外の指紋は見つからなかった。
 捜査は暗礁に乗り上げた。
 加えて、桜田の元妻の協力も得られなかった。
 頑として口を閉じ、ファックス内容の真偽について一切答えなかった。
 それは両親も同じだった。
 離婚の傷は深く、彼らは世間との接触を完全に断っており、警察に対しても同じ態度を取り続けた。
 しかも、説得に当たる警察を嫌悪した彼らは、逃げるように外国へと旅立っていった。
 警察は阻止することもできず、成す術もなく重要な手掛かりを手放してしまった。
 そんな警察の動きを見た報道各社の反応は薄かった。
 というか、誰がやったかということには興味がなさそうだった。
 それよりも、元教師がこんな破廉恥なことを、それもよりによって市長選挙に立候補した人間がこんなことを、という側面にフォーカスを当てることが重要と考えているようだった。
 それこそがニュースバリューだと決めつけているとしか思えなかった。
 だから、桜田の側に立つ報道機関が現れるはずがなかった。
 そんな状況だから、彼が発信したSNSに至っては無視されていた。
 八方塞がりの中で桜田は頭を抱えるしかなかった。