ファックス事件のあと、選挙の形勢は大きく変わった。
 それまで優勢だった桜田の勢いは急速に萎み、枯田への支持が盛り返した。
 完全に逆転したのだ。
 桜田は打ちのめされたが、如何ともしがたかった。
 それでもなんとかしたい桜田はSNSなどを通じて自らの無実を訴えたが、〈いいね〉を返すフォロワーはほとんどいなかった。
 というより、フォローする人の数が激減していた。
 桜田に対して呆れているのは間違いなかった。
 
 このままでは浮かばれない、

 桜田は天を仰いだ。
 しかし、成す術はなかった。
 しかも、頼みの綱である私立探偵からの報告は、期待を裏切るものだった。
 
「選挙参謀は選挙事務所と自宅を行き来するだけで、外での会合へ行くこともなく、飲みにさえ出かけません。彼だけでなく、運動員全員が同じ行動をとっています」

「尻尾を掴ませてくれないか……」

 本部長が腕組みをして唸ると探偵は力なく頷いたが、「どうしましょうか?」と心細そうな声を出した。
 見張りを打ち切られる心配が顔に出ていた。
 
「続けてくれ。いつ尻尾を出すかわからないから目を離さないでくれ」

 それで探偵の顔が明るくなったが、そんなことはどうでもいいというように本部長は表情を変えず桜田の方に顔を向けた。