その夜、ターゲットは母親に言い出すことができなかった。
 理由が思いつかなかったのだ。
 なんでも買い与えてもらっている彼女には欲しいものが何もなかった。
 しかし、お金の工面ができなければ寒田と黄茂井に暴力を振るわれる。
 そんなことになったら耐えられない。
 切羽詰まった彼女は悩んだ末、ある決心をした。
 
 家族が寝静まる深夜を待ってベッドを抜け出し、忍び足で台所のドアを開けた。
 食器棚の引き出しの3段目に母親の財布が仕舞ってあることを知っていたので、震える手で引き出しを開け、財布の中から千円札を1枚抜き出した。
「お母さん、ごめんなさい」と心の中で呟いて。