「1億円って、1万円札で何枚?」
わたしの問いに、奈々芽は目を白黒させた。
「1,2,3……」
両手で数え始めた。
「手を使わないの!」
「だって~」
情けない顔になった。
算数の苦手な奈々芽は、大きな数字どころか九九も覚束ない状態だった。
「1万枚よ」
「そんなに……」
あんぐりと口を開けた奈々芽はしばらく黙っていたが、ふと我に返ったようで、「でも、1億円って俺に関係ないじゃん」と言って逃げようとした。
わたしは彼の腕を取って引き止めた。
「それがね、関係あるのよ」
「なんで?」
「マラソンで日本新記録出したら賞金が出るの知ってる?」
「知らない」
「新聞読んでないの?」
すぐさま彼は〈読むわけないじゃん〉というような顔をした。
新聞どころかテレビのニュースも見ていないと言う。
「だから知らないのね。じゃあ教えてあげる。でもびっくりしないでね。1億円よ」
「ウソっ!」
鳩が豆鉄砲を食らったような表情になった。
それを見て吹き出しそうになったが、ぐっとこらえて話を続けた。
「日本陸連が選手を強化するために始めたのよ」
「へ~」
「奈々芽君は大学で箱根駅伝を走って、実業団でマラソンをしたいんでしょ?」
「うん」
「日本新記録出して1億円貰ったらいいじゃない」
するとまた手で数字を数えだした。
一、十、百、千、万……、
「手を使わないの!」
少しきつく言うと、彼はバツが悪そうに上目遣いでわたしを見た。
その途端かわいそうになったので声を優しくした。
「数字と友達になろうよ」
「友達?」
「そう。これからいっぱい賞金を稼ぐんだから、数字と友達になって仲良くしないとね」
「そっか~」
「足し算と引き算と掛け算と割り算が正確にできたら、社会人になっても困らないからね」
これはお母さんからの受け売りだったが、さも自分の言葉のように伝えた。
そして、九九のおさらいから始めた。
次に、大きな数字に興味を持ってもらうために有名なスポーツ選手の契約金や年俸の数字を、更に、世界の人口や日本の国家予算などの数字を二人で確認した。
すると彼は色々な数字に関心を持つようになった。
そのせいか、毎日新聞を見るようになった。
「ニケの売上って、1兆円超えてるんだぜ。凄くない?」
スポーツシューズ世界最大手の企業の決算発表の記事を読んでびっくりしたのだと言った。彼は確実に数字と仲良くなり始めていた。
わたしの問いに、奈々芽は目を白黒させた。
「1,2,3……」
両手で数え始めた。
「手を使わないの!」
「だって~」
情けない顔になった。
算数の苦手な奈々芽は、大きな数字どころか九九も覚束ない状態だった。
「1万枚よ」
「そんなに……」
あんぐりと口を開けた奈々芽はしばらく黙っていたが、ふと我に返ったようで、「でも、1億円って俺に関係ないじゃん」と言って逃げようとした。
わたしは彼の腕を取って引き止めた。
「それがね、関係あるのよ」
「なんで?」
「マラソンで日本新記録出したら賞金が出るの知ってる?」
「知らない」
「新聞読んでないの?」
すぐさま彼は〈読むわけないじゃん〉というような顔をした。
新聞どころかテレビのニュースも見ていないと言う。
「だから知らないのね。じゃあ教えてあげる。でもびっくりしないでね。1億円よ」
「ウソっ!」
鳩が豆鉄砲を食らったような表情になった。
それを見て吹き出しそうになったが、ぐっとこらえて話を続けた。
「日本陸連が選手を強化するために始めたのよ」
「へ~」
「奈々芽君は大学で箱根駅伝を走って、実業団でマラソンをしたいんでしょ?」
「うん」
「日本新記録出して1億円貰ったらいいじゃない」
するとまた手で数字を数えだした。
一、十、百、千、万……、
「手を使わないの!」
少しきつく言うと、彼はバツが悪そうに上目遣いでわたしを見た。
その途端かわいそうになったので声を優しくした。
「数字と友達になろうよ」
「友達?」
「そう。これからいっぱい賞金を稼ぐんだから、数字と友達になって仲良くしないとね」
「そっか~」
「足し算と引き算と掛け算と割り算が正確にできたら、社会人になっても困らないからね」
これはお母さんからの受け売りだったが、さも自分の言葉のように伝えた。
そして、九九のおさらいから始めた。
次に、大きな数字に興味を持ってもらうために有名なスポーツ選手の契約金や年俸の数字を、更に、世界の人口や日本の国家予算などの数字を二人で確認した。
すると彼は色々な数字に関心を持つようになった。
そのせいか、毎日新聞を見るようになった。
「ニケの売上って、1兆円超えてるんだぜ。凄くない?」
スポーツシューズ世界最大手の企業の決算発表の記事を読んでびっくりしたのだと言った。彼は確実に数字と仲良くなり始めていた。