その後もわたしは2週間ごとに新しい本と要約を書くためのノートを渡し、建十字はきっちり2週間後に本とノートを返しに来た。
 ノートに書かれている文字には漢字が増え、学校で習っていない漢字も書くようになった。
 それだけでなく、そんなに辞典を引かなくても読めるようになったと言った。
 もう、わたしがお節介を焼かなくてもいい頃かも知れなかった。
 実は、先日偶然にも彼が図書館に入るところを見かけたのだ。
 彼は強制されずに自分の意思で本を探し始めたようだった。
 
 そんなある日の放課後、建十字が横河原と奈々芽に本を渡しているところに偶然出くわした。

「これ読めよ」

『本多の新しい挑戦』という本を横河原のために、『ボルテの速さの秘密』という本を奈々芽のために、図書館で借りてきたようだった。

「お前らもプロや実業団を目指しているんだから、契約書に書いてある漢字を読めるようにならないとな」

 本を手にした横河原と奈々芽は、建十字が言っていることがよくわからないようだった。

「契約書?」

 二人は首を傾げた。

「いいから、とにかく読め!」

 建十字が二人の肩をドンと叩いた。