「本多選手って英語ペラペラらしいよ」

「ふ~ん」

「本多選手みたいに海外に行きたい?」

「当たり前だよ。プロになって海外へ行くのが夢」

「だったら英語を話せるようにならないと」

「う~ん……」

 彼の顔が一気に曇った。

「授業つまんないから、やる気出ないし、だから、覚えられないし、無理だよ」

「そんなことないよ。横河原君ならできるよ。そうだ、わたしと英語で話そうよ」

 5年生の時から英語の授業が始まっていた。
 海外への興味を募らせていたわたしは必死になって勉強した。
 それだけでなく、お母さんが買ってくれた英会話の本とCDにも夢中になった。
 NHK教育チャンネルの英語番組もできるだけ見るようにした。
 すると、簡単な日常会話ならなんとなくわかるようになった。
 だから英語にはちょっと自信があった。
 
「貴真心と?」

「そう。わたしが海外のチームの監督で、横河原君が移籍してきた選手よ。今日初めて会ったの。監督に挨拶しなきゃダメでしょ。わたしを監督だと思って挨拶してみて」

「『こんにちは』ってなんて言うんだっけ」

「ハローよ」

「へへへ、ハロー」

「へへへはいらないの。もう一度」

「ハロー」

「その次は、『初めまして』って言うのよ」

「そんなのわかんないよ」

「『ナイス・トゥー・ミーチュー』よ」

「ナイス……、チューチュー♪」

「もう、真面目にやって!」

 彼は、へへへと笑って頭を掻いた。

「もう一度言うわよ。ナイス・トゥー・ミーチュー」

「ナイス?」

「トゥー」

「ナイス・ツー」

「ツーじゃなくて、トゥー」

「トゥー」

「そう」

「ナイス・トゥー?」

「ミーチュー」

「ナイス・トゥー・ミーチュー」

「ナイス・トゥー・ミーチュー・トゥー」

 わたしは思い切り拍手をした。

「横河原君は頭いいんだから、すぐ英語喋れるようになるよ」

「そうか~」

 彼は照れて頭を掻いた。
でも、めちゃくちゃ嬉しそうだった。