放課後はなんの心配もなく毎日図書館へ行って思う存分本を読むことができるようになった。
 ただ、読みたいと思う本は以前と変わり始めていた。
 ヨーロッパへの関心は冷めていなかったが、同時に、渇望ともいえる新しい何かが芽生えていたのだ。
 それは、誰かの役に立ちたい、という欲求だった。
 それは、わたしを救ってくれた三文字悪ガキ隊への感謝の気持ちから芽生えていた。
 誰かを助けたい、誰かの役に立ちたい、困っている人に手を差しのべたい、わたしにできることは何かないだろうかと心からそう思うようになっていた。
 でも何をしたらいいのか、何ができるのか、想像することさえできなかった。
 だから、一生懸命考えた。
 そして、誰かに助けてもらって嬉しかったことを一生懸命思い出そうとした。
 すると、あることがふっと蘇ってきた。
 そうだ、あの時はとても嬉しかった。
 遠足の2日前に熱を出して病院に行った時、小児科の先生から「このお薬を飲んで、お母さんの言うことをちゃんと聞いたら遠足に行けるようになるよ」と言われたのだ。
 そして、その通りにしたら、本当に熱が下がって元気になって遠足に行けたのだ。
 その時、病院の先生って凄いなと思った。
 それを思い出した途端、病気の人を助ける仕事がいいかも知れないと思った。
 
 お母さんにそのことを話すと正式な職業名を教えてくれたので、早速図書館へ行って本を探した。
 あった。
『医師という職業』『看護師の仕事』『薬剤師と薬の話』
 それらを借りて家で読んだ。
 しかし、難しすぎて読めなかった。
 わたしには無理だった。
 ガッカリして落ち込んでいると、お母さんが1冊の本を渡してくれた。
『ナイチンゲール』というタイトルだった。
 大人用の絵本で、1820年にイタリアのフィレンツェで生まれたフローレンス・ナイチンゲールの物語だった。