図書館の前で虐められていた時、真っ先に拳を振り上げてくれたのが建十字だった。
 パトロール隊の隊長として、日に何度もわたしの教室へ来て睨みを効かせてくれたのも彼だった。
 わたしが渡した本を一生懸命読み続けてくれたのも彼だった。
 彼は難しい本がどんどん読めるようになり、難しい漢字がどんどん書けるようになり、ノートにびっしりと本の要約を書いたあと、必ず「貴真心ありがとう」と書き添えてくれた。
 
 ふるさと納税を提案してくれたのも彼だった。
 忙しいのに、色紙とボールに寸暇(すんか)を惜しんでサインをしてくれた。
 ひとり親家庭支援の寄付を考えたのも彼だった。
 彼は、いつもわたしを支えてくれた。
 率先して支えてくれた。
 
 中学を卒業後、彼とは別々の高校になったが、甲子園大会の出場が決まるたびに彼は入場券を送ってくれた。
 わたしは毎回球場に足を運び、声を枯らして応援した。
 ヒットを打つ度、三振を取る度に両手を突き上げた。
 
 彼がドラフト1位指名を受けてプロ入りした年、二人の関係は友達から恋人に変った。
 わたしは幸せだった。
 幸せ以上だった。
 しかし、それは長く続かなかった。
 彼の長年の夢だった大リーグへ移籍することが決まったからだ。
 嬉しかった。
 本当に嬉しかった。
 彼の喜ぶ顔を見てわたしも全身で喜びを表した。
 しかし、内心は違っていた。
 これからどうなるのだろうという不安に(さいな)まれていた。
 彼がアメリカへ出発する日、誰にも見られないように身を隠しながら、成田空港で大きな不安を抱えて彼を見送った。