夏休みになった。
 わたしは毎日図書館に通った。
 寒田と黄茂井の顔を見ないで過ごす日々は穏やかで安らかだった。
 
 図書館にある旅行本をほとんど読み終えたわたしの興味は歴史に移っていた。
 特に、ヨーロッパの歴史に。
 美しい街並みや芸術作品が生み出された背景を知りたくなったのだ。
 フィレンツェを支配し、黄金時代を築き上げ、ルネサンスを開花させたメディチ家。
 歴代の王が600年に渡って芸術家を庇護(ひご)し、多くの作品を収集し、ウイーンを芸術の都として開花させたハプスブルク家。
 わたしは夢中になって、それらの本を貪り読んだ。