あっという間に時は経ち、開校まであと半年となった。
 校舎やトレーニング施設、競技場の整備は最終段階に差し掛かっており、転職してきた職員たちは準備に追われていた。
 そんな慌ただしい中、丸岡は内装工事が終わった校長室に呼ばれた。
 
「君に学年主任を任せたい」

 夏島から告げられたのは、初めて迎える新一年生120人の現場を預かる重要なポジションだった。
 教師を統率し、保護者との対応の最前線に立つという大きな責任を負わなければならない立場に丸岡は身震いした。
 しかし、覚悟はできていた。
 
「光栄です。喜んでお引き受け致します」

 未知の領域への挑戦が始まった丸岡が先ずしたのは、鹿久田を副学年主任に指名することだった。
 夏島は「君に任せる」とだけ言った。
 
 さっそく二人は競技や授業以外の重要なポイントを話し合った。
 
「中学生という多感な時期の心のケアは大事なポイントになる」

 大学でスポーツ心理学を学んだ丸岡は、その重要性を明確に認識していた。

「試合に出られない時、スランプに陥った時、怪我で練習ができなくなった時、チームメイトとの仲がしっくりいかなくなった時、平常心を保つことは難しい。それ以外にも思春期には多くの誘惑がある。異性やゲームなどからの誘惑だ。適切な時期に適切な指導、アドバイスをしなければならない」

 鹿久田が〈その通りだ〉というように頷いた。

「担任や部活顧問だけに任せるのではなく、教員全体で見守る必要があると思う」

「そうなんだ。ちょっとした変化に気づくためには、多くの目で見る必要がある」

「それと、成長期の体の手入れも同じくらい大切だ」

 柔道整復師の資格を取得した鹿久田は、若い頃からの整体の重要性を強く認識していた。

「ウォーミングアップ、クールダウンの重要性は誰しも認識していると思うが、それは個々の体に合ったものでなければ意味がない。生徒一人一人の体の柔らかさ、筋肉のつき方、筋や腱の強さ、それらを把握した上で行わないと十分な効果を発揮しないんだ」

 丸岡に異論はなかった。

「一人一人の生徒の精神状態が違うように一人一人の生徒の体も違う。だから、個々に合わせたケアが絶対に必要だと思う」

「その通りだ。そして、心と体は密接に関係している。心身相関だ。別々にケアするのではなく、心と体を一体としてケアしなければならない」

 二人は、生徒の心と体を一体としてケアすることを教職員全員の重要なテーマにすることに決めた。