翌日も朝から部屋に籠った。
 飛鳥の言葉を思い返しては胸の内で何度も反芻した。
 
「才能のある子供をできるだけ早い時期に発掘して、能力を伸ばしていくことが必要です。同時に、社会性を身につけさせ、自分で考え抜ける精神力を鍛えなければなりません」

「荒廃した学校の立て直しが喫緊の課題であることは承知しています。しかしいくら手を打っても、校長を始めとした教職員の意識が変わらなければ問題解決には繋がらないのではないでしょうか。既存のシステムを温存したままで虐めの問題を解決するのは難しいと思うのです。だからこそ抜本的な対策が必要なのです。教育長のお立場は十分理解していますが、ここは柔軟に考えていただけないでしょうか。どこが主導権を握るかというレベルを超えて、オール夢開市で取り組んでいただけないでしょうか。スポーツ庁も全面的に支援させていただきますので」

「教育特区を活用したスポーツ専門中学校を成功させ、虐めのない学校運営を実現させると共に、日本スポーツ界の未来を切り開きましょう」

 目を閉じると、三角が体の前で両手をぐっと握って発した言葉が再び蘇ってきた。
 
「堅岩先生、チャンスです。スポーツ教育に、いや、公立中学校教育に大きな一石を投じるチャンスです。それも、この夢開市で始められるのです。こんな幸運、一生に一度有るか無いかです。先生!」

 う~~~~ん、
 
 長い唸りを発したあと、息を一杯吸い込んで天井を仰いだ。
 呼吸を止めたまましばらく動かなかったが、それも続かず、何かを吐き出すように大きく息を吐いた。
 同時に、ゆっくりと頭を下げ、テーブルの上に置きっぱなしの紙に目を落とした。
 そしてボールペンを握り、そのままじっと紙を見つめ続けた。