指定されたのは柔道場近くの喫茶店だった。
 ドアを開けると、奥の席に彼はいた。
 しかし、彼だけではなかった。
 丸岡もいたのだ。

「えっ、どういうこと?」

「まあ、座れよ」

 鹿久田に促されて席に着いたわたしに丸岡が事の成り行きを説明した。

 あの日、駅で別れてから丸岡は次の候補を探し始めたが、これはという人が思い浮かばず行き詰ってしまい、そのせいか練習にも身が入らず、仕事中にボーっとすることもしばしばだったという。
 そんな時、鹿久田から電話があって飲みに誘われ、その席でスポーツ専門中学のことを話すと、彼が乗ってきたのだという。
 そして、三人で話し合おうということになり、わたしに電話したのだという。
 
「まだ候補が見つかったわけではないから電話しにくくてさ。だから鹿久田に頼んだんだ」

 (だま)したようで悪い、と右手を顔の前に立てた。

「ん~ん、わたしも鬱々としてたから気分転換したかったの」

 すると、丸岡はホッとしたような表情になってコップに手を伸ばした。

 その後はこの店の名物を食べようということになってカツカレーを三人で食べた。
 彼らは大盛りでわたしは普通盛りを頼んだが、普通といっても結構な量だったので少し彼らに取ってもらった。
 それでも食べ終わった時のお腹の張り具合は尋常ではなかった。
 しかし彼らはまだ足りないようで、「もう一人前食うか?」と顔を見合わせていた。
 スポーツ選手の食欲は半端ないと改めて感心した。
 
 食後のコーヒーを飲んでいる時、鹿久田が膝を擦り始めた。
 気になったので「どうしたの」と聞くと、左足の靭帯(じんたい)を痛めたのだと顔をしかめた。
 
「古傷なんだ。何回もやっちゃってる。職業病みたいなもんだな」

 仕方ないというふうに口を歪めながら、「体が悲鳴上げてるし、そろそろかなって」と寂しそうに笑った。