テレビのある部屋へ戻ると、お母さんがこっくりこっくりしていた。
 毎日の仕事と家事で疲れているのだと思った。
 それに、わたしのことが心配でよく眠れないのかもしれないと思った。
 なんか泣きたくなった。
 でも泣いたらいけないと思った。
 
「あらっ」

 お母さんが目を覚まして、目をぱちぱちとした。
 そして、目と目の間を右手の親指と人差し指で摘まむようにした。
 それから肩をグルグルと回した。
 
「叩いてあげる」

 拳を軽く握ってお母さんの肩をトントンと叩いた。
 硬かった。
 かなり凝っていると思った。
 
「ありがとう。もういいわよ」

 肩に置いたわたしの左手を右手で握り、反対の手で右手を握った。
 そして両方の手を引っ張られた。
 するとお母さんにおんぶするような格好になった。
 お母さんが上体を前後に揺らすと、わたしの体も一緒に揺れた。
 その時、ふっと小さな頃のことを思い出した。
 すると、思ってもいなかったことが口から飛び出した。
「お母さん、一緒に寝てもいい?」