あの踊り場の日以来、日向野との会話はおろか目が合うことすら無くなった。
日向野は花岡たちに動画撮影を誘われてもバイトが忙しいとか、昼は先生の手伝いをすることになったとか上手いこと言って言い逃れていた。
「最近日向野くん忙しそうだよね」
放課後、ファミレスのドリンクバーを取りに行って戻って来た花岡が言った。
「日向野は真面目だから、色々仕事頼まれるんだろ」
日向野が捕まらなくなって嫉妬先が無くなった山下は随分と笑顔が増えた気がする。
今なら山下の気持ちが痛いほどわかるので、山下には同情すらしてしまう。
「てか逆に八代が暇になったよね」
篠宮が鼻で笑う。先生は八代より仕事できそうな日向野に乗り換えたんだろうと。
「そうだよ。日向野のほうが真面目だもん」
「まぁ確かに」
「全部真面目そうだよね。彼女とかにも一途そう」
羨ましそうに花岡がオレンジジュースを飲んだ。
「いや、結構無神経なんじゃない? 乙女心とかわかってなさそうじゃん」
「誰が言ってんだよ」
間髪入れずに攻撃する山下を、安達が制する。
「でもあの顔があって彼女居ないのは勿体ないよなぁ」
安達が日向野の容姿を持っていたら相当の遊び人になっていただろうな。
「でも好きな人はいるらしいよ」
篠宮が言うと、安達と山下が外の全員が顔を見合わせた。
八代は知らん顔でアイスティーを飲む。
「篠宮ちゃんなんで知ってんの!?」
「この間ローラースケートしてる時に言ってたよね?」
「言ってた。あの時、純人と安達くん居なくなったじゃん? であんたがトイレ行ってる時に動画回そうとしたんだけど、結構顔ぎこちなくて。ね?」
「そうそう。で、美鈴が好きな子思い浮かべてって言ったらめっちゃ表情良くなったんだよね」
安達と山下は「へぇー」「マジか」と感心している。
「うちの学校かな」
「どうだろう。それは教えてくれなかったけど」
「じゃあうちの学校か」
花岡と安達が納得している横で、八代だけは気持ちが沈んだままだ。
それからダラダラと一時間くらい喋ったが、花岡と八代に予定があるため早めに解散することになった。安達は漫画を買うために本屋に行くと言うので、三人とはファミレスで別れて八代は山下を駅まで送るために並んで歩いた。
「なんかさ、山下ってすごいな」
「なんだよ急に」
今日のことをふと思い出して話した。
「だって花岡に振られ続けてるみたいなもんなのに絶対引かないじゃん。日向野とか居ても受け入れてたし」
「まぁ片想いの宿命でしょ、それは」
特に寂しい顔をするわけでもなく、山下は笑い飛ばした。
今はその明るさが気を紛らわしてくれるので助かる。
「純人はないの? そういうの」
「どうかな。微妙」
「何それ。彼女とかいたわけじゃん。片想いして付き合った人とかいないの?」
「居ないね。いつも告白される側だったから。それで付き合っても本気で結局続かなかったけど」
「うわーモテてるやつの発言じゃん」
わざとらしく山下の顔が引き攣る。
「でもそれって別に嬉しくないんだよ。困っちゃから」
「だからそれもモテるからなんだって。モテない俺からしたらウハウハな状態だよ」
考えてみると、片想いされ続ける側とし続ける側ではそりゃ捉え方は違うわけで。
「でも一人……居たんだよね。告白してくれて、俺も居心地いいなーなんて思ってたのに、それが恋なのかわからなくて、ダメになっちゃったやつ」
「えーもったいないね。そこまできたらもう付き合えるのに」
「相手に過去に付き合ってたっぽい人がいて、で、その人とまだ終わってないかもしれなくてさ……」
「浮気ってこと?」
「一年以上会ってなかったから浮気ではないんだろうけど、なんかショックでさ」
「まぁ過去の男が気になる気持ちはわからなくはないけど、過去は過去だから。俺がもし純人と同じ立場になって、その子のこと好きだったら全然気にしません!って言って付き合っちゃうけどね」
悩まずに答えた山下の強さに感心した。口だけではなく、山下なら本当にそうするだろうなと容易に想像ができた。
「山下はやっぱ強いよ」
「強いとかじゃないでしょ。本当に好きかどうかじゃないの? 好きだったら他のやつに取られたくないし、ほっとけないよね」
ちょうどよく駅に着くと、山下がガシッと八代の肩を掴んだ。
「まぁその子のこと忘れられないなら、もう一回会ってみたら?」
「考えてみるよ」
「花岡ちゃんにいかれても困るしね」
結局気にしてたのはそこかと笑い、山下を見送った。
日向野は花岡たちに動画撮影を誘われてもバイトが忙しいとか、昼は先生の手伝いをすることになったとか上手いこと言って言い逃れていた。
「最近日向野くん忙しそうだよね」
放課後、ファミレスのドリンクバーを取りに行って戻って来た花岡が言った。
「日向野は真面目だから、色々仕事頼まれるんだろ」
日向野が捕まらなくなって嫉妬先が無くなった山下は随分と笑顔が増えた気がする。
今なら山下の気持ちが痛いほどわかるので、山下には同情すらしてしまう。
「てか逆に八代が暇になったよね」
篠宮が鼻で笑う。先生は八代より仕事できそうな日向野に乗り換えたんだろうと。
「そうだよ。日向野のほうが真面目だもん」
「まぁ確かに」
「全部真面目そうだよね。彼女とかにも一途そう」
羨ましそうに花岡がオレンジジュースを飲んだ。
「いや、結構無神経なんじゃない? 乙女心とかわかってなさそうじゃん」
「誰が言ってんだよ」
間髪入れずに攻撃する山下を、安達が制する。
「でもあの顔があって彼女居ないのは勿体ないよなぁ」
安達が日向野の容姿を持っていたら相当の遊び人になっていただろうな。
「でも好きな人はいるらしいよ」
篠宮が言うと、安達と山下が外の全員が顔を見合わせた。
八代は知らん顔でアイスティーを飲む。
「篠宮ちゃんなんで知ってんの!?」
「この間ローラースケートしてる時に言ってたよね?」
「言ってた。あの時、純人と安達くん居なくなったじゃん? であんたがトイレ行ってる時に動画回そうとしたんだけど、結構顔ぎこちなくて。ね?」
「そうそう。で、美鈴が好きな子思い浮かべてって言ったらめっちゃ表情良くなったんだよね」
安達と山下は「へぇー」「マジか」と感心している。
「うちの学校かな」
「どうだろう。それは教えてくれなかったけど」
「じゃあうちの学校か」
花岡と安達が納得している横で、八代だけは気持ちが沈んだままだ。
それからダラダラと一時間くらい喋ったが、花岡と八代に予定があるため早めに解散することになった。安達は漫画を買うために本屋に行くと言うので、三人とはファミレスで別れて八代は山下を駅まで送るために並んで歩いた。
「なんかさ、山下ってすごいな」
「なんだよ急に」
今日のことをふと思い出して話した。
「だって花岡に振られ続けてるみたいなもんなのに絶対引かないじゃん。日向野とか居ても受け入れてたし」
「まぁ片想いの宿命でしょ、それは」
特に寂しい顔をするわけでもなく、山下は笑い飛ばした。
今はその明るさが気を紛らわしてくれるので助かる。
「純人はないの? そういうの」
「どうかな。微妙」
「何それ。彼女とかいたわけじゃん。片想いして付き合った人とかいないの?」
「居ないね。いつも告白される側だったから。それで付き合っても本気で結局続かなかったけど」
「うわーモテてるやつの発言じゃん」
わざとらしく山下の顔が引き攣る。
「でもそれって別に嬉しくないんだよ。困っちゃから」
「だからそれもモテるからなんだって。モテない俺からしたらウハウハな状態だよ」
考えてみると、片想いされ続ける側とし続ける側ではそりゃ捉え方は違うわけで。
「でも一人……居たんだよね。告白してくれて、俺も居心地いいなーなんて思ってたのに、それが恋なのかわからなくて、ダメになっちゃったやつ」
「えーもったいないね。そこまできたらもう付き合えるのに」
「相手に過去に付き合ってたっぽい人がいて、で、その人とまだ終わってないかもしれなくてさ……」
「浮気ってこと?」
「一年以上会ってなかったから浮気ではないんだろうけど、なんかショックでさ」
「まぁ過去の男が気になる気持ちはわからなくはないけど、過去は過去だから。俺がもし純人と同じ立場になって、その子のこと好きだったら全然気にしません!って言って付き合っちゃうけどね」
悩まずに答えた山下の強さに感心した。口だけではなく、山下なら本当にそうするだろうなと容易に想像ができた。
「山下はやっぱ強いよ」
「強いとかじゃないでしょ。本当に好きかどうかじゃないの? 好きだったら他のやつに取られたくないし、ほっとけないよね」
ちょうどよく駅に着くと、山下がガシッと八代の肩を掴んだ。
「まぁその子のこと忘れられないなら、もう一回会ってみたら?」
「考えてみるよ」
「花岡ちゃんにいかれても困るしね」
結局気にしてたのはそこかと笑い、山下を見送った。