五時間目が始まる頃には教室に戻ったが、日向野のことを視界に入れるのは苦しすぎて、分かりやすくそっぽを向いていた。
放課後はすぐさま安達の席へ行き、そそくさと帰りを促した。
「なんか目腫れてない? 何、寝てたの?」
安達が顔を近づけて見てくる。
「花粉症だよ」
「え、持ってたっけ!?」
「あったあった。去年も腫れてた。ほら、早く帰るぞ」
安達の背中を押して教室の出口に向かうと、トイレにでも行っていたのだろう日向野とバッタリと出会した。
咄嗟に安達の背中に顔を隠す。
「日向野ももう帰る?」
何も知らない安達が日向野に声をかける。
「ううん。ちょっと職員室寄ってくから」
「オッケー。じゃあまた来週」
安達が爽やかに言って教室を出ていく。
出遅れた八代は不意に日向野と目が合ってしまった。
「じゃあね、八代くん」
出会った頃に戻ったかのように、他人行儀に日向野が言って横をすり抜けていく。
気にしていない素振りで「じゃあな」と返事をし、八代は安達を追いかけた。
背中に視線を感じたのは想い過ごしだろうか。それとも、見ていて欲しいという自分の我儘すぎる願望か。