南川と話した日はさすがに学校に行く気分にはなれず自宅へと帰った。
母が居たが、適当に頭痛で早退してきたと嘘をつき、寝るからそっとしておいてくれと圧をかけて部屋へと入る。
もう日向野の残り香はしない。でも今は、たまらなくそれが欲しくなった。
南川より上だと思いたい。南川より近い存在だと安心したい。
むしゃくしゃした気持ちが湧き上がっては抑え込むのに必死だ。
ベッドに横たわりながら、おそらく南川のベッドであろう場所で寝ていた日向野が脳裏にチラつく。
俺の部屋に来た時はベッドに触れもしなかった。それは常識的に当たり前なことだろうに、今では「どうして」という理不尽な気持ちが心の中を埋め尽くしていた。
寝顔を見せられるほどの関係性であることが羨ましかった。
出会った順番が南川の方が先なのだからこればかりは仕方がないことなのに。
明日、日向野に上手く話せるだろうか。感情をコントロールできるだろうか。
だめだ。本当に頭痛がしてきた。もうこのまま寝てしまおうかと目を閉じた瞬間、スマホに着信があった。
見ると日向野からの着信で、昼休みの時間帯であることに気づく。ならば間違い電話ではないだろうと電話に出た。
「もしもし」
『八代くん、今日は来ないの?』
開口一番にそう聞かれて、午後だけ行くなんて選択肢あるわけないだろうと心の中で突っ込んだ。
「うん。ちょっと頭痛くて」
『そうなんだ。お大事にね』
「うん。ありがとう。心配してくれて」
『……じゃないよ』
「え?」
『心配じゃなくて、話したかっただけ』
耳元でダイレクトに聞こえた声に頑張って笑った。
甘い言葉を囁かれと、どうしても南川のことが頭を過ってしまう。
南川にも同じ言葉を言ったのだろうか。南川にも同じようなことするのだろうか。
「じゃあまた明日」
『うん。また明日』
お互い締めの挨拶をしたのに、電話が切れる気配が無い。
「普通掛けてきた方から切るでしょ」
『そっか、ごめん。じゃあまたね』
切れたら切れたで少し寂しく思ってしまうのだから、自分が気持ちのコントロールをできていないことを感じる。
明日はちゃんと話せるだろうか。