睡眠不足の体を無理やり起こして八代は学校へと向かう。
結局ベッドの中では目を瞑ると日向野のことを考えてしまうので、夜通しスマホのパズルゲームをして寝落ちに漕ぎ着いた。
もちろんそんな健康的ではない寝方をしたために、頭痛はするし、あくびのしすぎで口角も痛んでいる。
「八代純人くん、ですか?」
トボトボと歩いてい最中に、まるで自分が芸能人になったのかと錯覚しそうな台詞で背後から声を掛けられた。
寝ぼけ眼のまま振り向くと、そこには昨夜画面越しに見たばかりの男が制服姿で立っていて、一気に眠気が飛ばされた。
印象にない黒縁メガネは一応変装のためなのだろう。
それでも顔が整っていることがわかる。
「急にごめんなさい。南川彰です」
口調は丁寧だったが目は穏やかではない。
日向野と会わせないことの復讐でもしに来たのだろうか。
「あぁ、どうも」と軽く会釈をすると、不思議そうに首を傾げられた。
「渉は一緒じゃないんですか?」
当たり前のように日向野を下の名前で呼ぶ南川に不快感が募る。
「日向野は……まぁはい」
大人気なく態度にそれが出てしまったが関係ない。会わせる気はないという意思を汲み取ってくれさえすれば、南川にどう思われようとよかった。
「八代くんに押しかけて言うのも何なんですけど、渉にもう一度俺と会うことお願いして貰えませんか?」
無理だ。今もうこうして突然声を掛けてきて、拒絶されているのに「渉」と軽々しく呼んでいるこいつを信用などできるわけがない。
「坪内にも言いましたけど、会わないのは日向野の意思なんで」
冷たく言い放つと、ピキりと南川の眉根が動いた。
「中学時代の関係は知りませんけど、そもそも学校休んで待ち伏せですか? それってストーカー行為だと思うんで辞めた方がいいですよ」
あともう少しで学校に着く。さっさと振り切って逃げ込んでしまおうと、南川を置いて去ろうとした時だった。
「彼氏、でも待ってちゃダメですかね?」
南川の言葉は、八代の首根っこをがっしりと掴んで離さなかった。
体が動かないまま頭だけがフル回転する。
ありえない。彼氏なら連絡先を知らないはずなどないし、こんなストーカーみたいなことするはずない。
日向野は言っていた。同性を好きになったのは自分が初めてだと。
「なんでそんなに動揺してるの?」
南川が前に回り込んできて顔を見てきた。
急なタメ口がさらに憎らしさを増長させる。
「渉が教えてくれなかったから?」
「俺は日向野の友人なので日向野の言ったことを信じます」
バレている動揺を無かったことにするように平然を装って答えた。
自分は日向野を信じていれば何も問題ない。だから今すぐにでも南川を振り切って学校へと逃げ込んでしまえ。そうすれば……。
「本当のことなのに」
全て先手を打たれた。振り切ろうとすることも想定の内だったのだろう。
目の前で掲げられた南川がスマホの画面には、ポチャチャのマスコットを持った日向野と南川が顔を近づけて自撮りしている写真が映し出されていた。
「ね、嘘じゃないでしょ」
息苦しさに言葉が出てこない。
写真といえ二人が並んでいるところをダイレクトに見てしまっては、信じようとしていた気持ちがいとも簡単に綻んでいく。
「良かったら話しますけど、俺と日向野のこと」
ダメージを加えることに成功したからなのか、南川は再び丁寧に声を掛けてくる。
「どうして俺に?」
「だって、知りたそうな顔してるじゃないですか」
その目は僅かに、意地悪く笑っていた。
結局ベッドの中では目を瞑ると日向野のことを考えてしまうので、夜通しスマホのパズルゲームをして寝落ちに漕ぎ着いた。
もちろんそんな健康的ではない寝方をしたために、頭痛はするし、あくびのしすぎで口角も痛んでいる。
「八代純人くん、ですか?」
トボトボと歩いてい最中に、まるで自分が芸能人になったのかと錯覚しそうな台詞で背後から声を掛けられた。
寝ぼけ眼のまま振り向くと、そこには昨夜画面越しに見たばかりの男が制服姿で立っていて、一気に眠気が飛ばされた。
印象にない黒縁メガネは一応変装のためなのだろう。
それでも顔が整っていることがわかる。
「急にごめんなさい。南川彰です」
口調は丁寧だったが目は穏やかではない。
日向野と会わせないことの復讐でもしに来たのだろうか。
「あぁ、どうも」と軽く会釈をすると、不思議そうに首を傾げられた。
「渉は一緒じゃないんですか?」
当たり前のように日向野を下の名前で呼ぶ南川に不快感が募る。
「日向野は……まぁはい」
大人気なく態度にそれが出てしまったが関係ない。会わせる気はないという意思を汲み取ってくれさえすれば、南川にどう思われようとよかった。
「八代くんに押しかけて言うのも何なんですけど、渉にもう一度俺と会うことお願いして貰えませんか?」
無理だ。今もうこうして突然声を掛けてきて、拒絶されているのに「渉」と軽々しく呼んでいるこいつを信用などできるわけがない。
「坪内にも言いましたけど、会わないのは日向野の意思なんで」
冷たく言い放つと、ピキりと南川の眉根が動いた。
「中学時代の関係は知りませんけど、そもそも学校休んで待ち伏せですか? それってストーカー行為だと思うんで辞めた方がいいですよ」
あともう少しで学校に着く。さっさと振り切って逃げ込んでしまおうと、南川を置いて去ろうとした時だった。
「彼氏、でも待ってちゃダメですかね?」
南川の言葉は、八代の首根っこをがっしりと掴んで離さなかった。
体が動かないまま頭だけがフル回転する。
ありえない。彼氏なら連絡先を知らないはずなどないし、こんなストーカーみたいなことするはずない。
日向野は言っていた。同性を好きになったのは自分が初めてだと。
「なんでそんなに動揺してるの?」
南川が前に回り込んできて顔を見てきた。
急なタメ口がさらに憎らしさを増長させる。
「渉が教えてくれなかったから?」
「俺は日向野の友人なので日向野の言ったことを信じます」
バレている動揺を無かったことにするように平然を装って答えた。
自分は日向野を信じていれば何も問題ない。だから今すぐにでも南川を振り切って学校へと逃げ込んでしまえ。そうすれば……。
「本当のことなのに」
全て先手を打たれた。振り切ろうとすることも想定の内だったのだろう。
目の前で掲げられた南川がスマホの画面には、ポチャチャのマスコットを持った日向野と南川が顔を近づけて自撮りしている写真が映し出されていた。
「ね、嘘じゃないでしょ」
息苦しさに言葉が出てこない。
写真といえ二人が並んでいるところをダイレクトに見てしまっては、信じようとしていた気持ちがいとも簡単に綻んでいく。
「良かったら話しますけど、俺と日向野のこと」
ダメージを加えることに成功したからなのか、南川は再び丁寧に声を掛けてくる。
「どうして俺に?」
「だって、知りたそうな顔してるじゃないですか」
その目は僅かに、意地悪く笑っていた。