ゲームセンターを出てもなお、日向野に手首を掴まれて街中を引っ張られて歩く八代。
日向野は手を一向に離そうとしない。
「どうしたんだよ」
呼びかけても答えてはくれなくて、ただ街の喧騒で聞こえないのかと思ったが、どこか怒っているようにも思えて、八代はそのままただ日向野に着いていくしかなかった。
「なぁ、日向野」
暫くしてもう一度呼ぶと、今度は手首を握っていたはずの日向野の手が滑り降りてきて、普通に手を繋がれた。
手首を掴まれているのと手を繋がれているのではあまりにも状況が違いすぎる。
手のひらから伝わってくる日向野の熱に、心拍数がとんでもなく上がっていくのがわかった。
あぁどうしよう。周りから見たら今自分は沸騰しそうなほど顔が赤いのではないだろうか。
こんな状態を安達たちに見られてしまったら何と言えばいいのか。
頼むから離してくれ。あいつらに会う前に、この早すぎる心臓の音を静かにさせて欲しい。
やがて待ち合わせ場所の駅に近づき、遠目から安達たちを確認できるところまで来ると日向野が立ち止まり、繋がれていた手がそっと離れた。
熱かったそこに冷気を感じる。けれど心はそう簡単には冷めてはくれない。
「ダメじゃん」
名を呼ばれて日向野を見上げると、日向野が少し苦笑いに八代のことを見ていた。
「デート中なのに俺そっちのけで盛りがっちゃ。嫉妬しちゃうよ」
「いや、あれは……」
「本当のデートだったら怒られるから気をつけなね」
これは練習だったから良かったけど。
付け足された言葉に思わず苦笑いした。
嫉妬したのも、手を繋いできたのも、全ては日向野のデート演出なわけで。
そんなものにいちいち動揺したり、恥ずかしくなってる自分にやるせ無くなる。
「練習だからって手とか繋ぐなよ」
そう言ってやるのが精一杯で、それ以上は言葉になどできなかった。
「ほら、もうみんな来てるから行くぞ」
日向野の行動や言葉はきっと間に受けてはいけないのだ。
いちいち全ての行動の意味を考えていたら頭がおかしくなる。
それほど日向野の行動は八代の心情を振り回していた。