───日曜日。


事務所に設置されているパソコンの右下に、小さく8:56と表示されている。


日曜日のこの時間は、いつもだったらまだ寝ている。


普段あまり朝から入ることはないけど、今日は元々シフトに入っていたスタッフさんが体調不良で、その代わりに急遽俺が入ることになった。


薄暗いバックヤードからそのままフライヤーの横を通って、簡易な扉をあけて、9:00に交代の早朝勤務のスタッフさんにあいさつをしようとしたとき───、


「あたし、レモンティーにする」


柔らかくて透き通った、聞き覚えのある声がすぐ横から聞こえてきた。


声のしたほうに顔を向けると、ホットドリンクの前で、男女2人が仲良くドリンクを選んでいた。


男の人は、180cm近くありそうな大人の男性。


ダークベージュのロングコートがすごく似合っている。


そしてその隣には、……お姉さんがいた。


普段俺が見ている服装とは違って、髪も綺麗に巻かれていた。


普段よりも丈が短いスカートに厚手のアイボリーのカーディガンを羽織っている。


男の人の隣で笑うお姉さんに疲れなんて一切見えなくて、お姉さんなのにお姉さんじゃないみたい。


彼氏、いたんだ……。


思わずバックヤードに隠れてしまった。


大人な男性の隣に並ぶお姉さんは全然子供じゃなくて、お姉さんのなりたい“オトナ”だと思った。


お姉さんは否定してくれたけど、やっぱり俺はまだまだ子供だ。


それにお姉さんはちゃんと“大人”だった。


ふたりがお店を出るまで、バックヤードから出ることができなかった。