「いつもここで買ったお酒を飲んでそのまま眠るんだ」
お姉さんの知らなかった一面を知れて嬉しい反面、お酒を飲まないと眠れないことが心配になる。
「そしたらお姉さんが寂しいとき、俺が一緒にいます」
もっと近付きたくて、距離を縮めたくて、
お姉さんがこのときどんな気持ちでいたのかも知らずに。
なにも返ってこないかわりに儚く微笑むお姉さんは、このまま夜に吸い込まれてどこかに消えてしまうんじゃないかと怖くなった。
「俺傘持ってるんで、22時までここで待っててください」
店内の壁にかけてある時計を見ると、あと10分であがれる。
お姉さんはなにも言わないで、ただボーッと雨が降っている外を見つめたまま。
「すみませーん、レジお願いしまーす」
お姉さんからの返事がないかわりに、別のお客さんに呼ばれた。
お姉さんが心配だけど、仕事をしないといけない。
待っててくださいね、ともう1度念押しをしてお客さんが待つレジに向かう。
「ありがとうございました」
お客さんに軽くお辞儀をしてそのまま視線を入口に移したけれど、お姉さんの姿はもうどこにもなかった。
この日から、お姉さんはコンビニに来なくなった────。