「しかし……」
 百識で初めて人間とリンクしたが、頭がズキズキする。
 正直、ユイくん一人とリンクするだけでも頭がパンクしそうだ。
 シリルのやつ、ハイスペックな天使基準でピーキーなスキル設定しやがって。
 100人同時接続なんて絶対に無理だし、短時間なら数人くらいは可能だろうが……常時接続となるとユイくん一人に絞るしかない。
「――百識、“新東愛里沙(しんとう ありさ)”と“木永明日魅(きなが あすみ)”とのリンクをカットする」
 俺は他人のプライバシーをのぞき見る趣味はないので、二人とのリンクは切っておく。これでちょっと脳の容量に余裕ができた。
「よし、戻るか」
 上空で旋回するツヨシに目をやり、エリサが西方面に移動していることを確認した。
 ツヨシにはエリサを護るよう指示を出しておいたので、エリサが店の前から移動しているということは、俺が待ち合わせ場所にいないから探しているのだろう。

 ツヨシを目印に移動する。
 馬車の停車所の前でレンガの壁を背に、うつむいて待つエリサの姿が見えた。
「悪い悪い!」
「クルル!」
「どこに行って――誰?」
「『サトシ』だ。よろしくな」
「クルル!」
「ちょっ……くすぐったいわ!?」
 白いイルカこと『サトシ』が長い鼻先でエリサのお尻をしきりに嗅ぐ。
 キサマ……本当にオスじゃあるまいな? 許さんぞ?
「どこに行ってたかと思えば、また奴隷買ったの?」
「いや、勝手について来るから仲間にした。仲良くな」
「クルル!」
 キュイッと鳴くこともあるので『淫魔の乱舞』という名前にしようと思ったけど、さすがに踏みとどまった。

「勝手に仲間にしちゃダメなんじゃないの!?」
「その辺のことはくわしく知らんが、まあ『サトシ』だし別にいいだろ」
「ポケモンじゃないんだからダメに決まってるでしょ!? 勝手に名付けた名前に犯罪を正当化する説得力を求めないで!」
「アツシ!」
 アツシもなんだかご立腹の様子。
 俺は考えをあらため、サトシを元いた場所に戻すことに。
 隷属紋はないから奴隷ではないはずだがな……。

「じゃあな、サトシ!」
「クルル……」
「じゃあね、サトシ! 元気でね!」
「アツシ!」
 まあ出会ってたいして時間も経ってないので何の感慨もないのだが、みんなで手を振ってサトシとお別れする。
「なあ、ところでアイス食べない?」
「あんたホントに何してたの?」
 アイス食ったはずの俺がもう一度アイス食おうとしたので、エリサは不審そうに俺を見た。
「クルル」
「行かないわね……」
 サトシは結局、俺達から離れずに付いて来た。
 ということでよろしくな、サトシ!

「サトシ、大所帯になってきたうちには余裕がない。メシの分はしっかり働いてもらうから、何ができるか教えてもらうぞ」
「キュイ!」
 買ってあげた水棲人用のオーバーオール(足の部分が二股ではなく一本になっている)を着て、ご機嫌のサトシ。エリサの強い要望で色はピンクにしたが、こいつはメスということでいいんだな? 信じているぞ!
 
 サトシは移動時に足のヒレを器用に前後させ、水上でダンスするイルカのごとく直立で滑走する。
 手がヒレで武器は持てそうにないので、俺は鑑定でサトシの能力を調べてみた。
 
 レベル7 水棲人
 サトシ(カータ・ラト・クトラ)
 
 スキル
 潜水(中)、水中高速移動(高)、“反響定位(エコロケーション)”(高)。

「潜水と水中高速移動はわかるが、“反響定位(エコロケーション)”はどんな感じなの?」
「クルル」
 なんかのチャンネルで観たことあるが、イルカは超音波を出して周囲の環境を立体的に捉えることができるらしい。
 索敵にはもってこいの能力。
 タップで備考欄を開いてさらに調べてみたが、大体そんな感じのことが書かれていた。
 少し違うところは、超音波を強く発生させることで複数の敵にダメージを与えられることだ。
 超音波は対象の物理防御を完全に無視できるらしい。
「おお、いいじゃんいいじゃん」
 スゲーじゃん。
「じゃあ何か危険が迫ったら教えるんだぞ、サトシ」
「キュイ!」
 これでパーティは索敵能力者が三人になった。
 ツヨシは空中から、アツシは視界不良の中、サトシは障害物を無視して敵を察知できる。
 攻撃するにも逃げるにも相手の位置情報をいち早くつかむのは重要だ。
 これは冒険がはかどるぞ。

「おいしい、サトシ?」
「クルル♪」
 まあその分、メシ代がかかるんだがな。
 昼飯時だが時間がないので、屋台で串焼きを買ってみんなで食べる。
 食感が鳥に似た謎肉はわずかにクセはあるが、炭火の香ばしい香りがそれを相殺し、さらに香辛料やハーブを配合した調味液に漬けることで十分食えるレベルになっている。
 肉は柔らかくスパイシーで、噛みしめるたびに口の中でうま味が弾ける。
「ぼりぼり……ところでさぁ」
 俺は追加で買ったキュウリの一本漬けをかじりつつ、エリサにアイス屋での一件を話した。
 異世界からの転移者達のことを。