「……なんか増えてる」
 朝起きて嫌な予感がしたのでステータス画面を開いた。
 『女神の殺意』に『シリルのぷんぷん』が追加されていた。
 
 シリルのぷんぷん。
 力天使シリルのおこ。
 受けられる加護のステータス上昇補正値が半分になる。
 お願いなのでパンツはちゃんと処分してください。

 ……ひでえ。
 ただでさえ弱いのにステータス補正下げやがって。
 いやまあ……俺にも少しは悪いとこあったかもしれないけどさ。
 あと俺のスキルの備考欄、何気にシリルの伝言板になってないか? 
 そして肝心の女神の殺意を恐る恐るタップすると、ストレートに怖いやつだった。

 女神の殺意。
 女神ラーフィスのとてつもなく激しい怒り。
 女神から差し向けられた十二の刺客がキミの前に現れる。

「十二の刺客ってなんだよ……」
 俺はゾォッとして、窓からコソッと外をうかがう。
 のどかな朝の風景があるだけで、特にそれっぽいヤツは見られない。
「おい、起きろみんな。顔を洗ったらここを出るぞ」
「アツシ!」
 もう起きていたのか、屋上からアツシの声がした。
 アツシは屋上から街灯の上に軽やかに着地し、狭い窓枠に触れることなく伸身した状態で飛び込んできた。
「おお、おはよう。ツヨシと一緒に遊んでたのか?」
「アツシ!」
 アツシはクルッと回って、背中にあるピンク色のホルダーに収まった鉄槍を見せた。どうやら屋上で鍛錬してたらしい。
 長物を収めるためのホルダーは頑丈なハーネスによって支えられ、重量のある武器をしっかり固定できる作りになっている。俺達の留守中にエリサが作ってくれた。
 今までむきだしの槍をずっと手で持ってたから、このホルダーはなかなか役に立つ。
「おはよ……」
「おう、お疲れさん」
 エリサが眠そうな目をこすって欠伸する。寝相が悪いのか、乱れたシャツからおへそが出てる。
「おはよ、アツシ」
「アツシ!」
 二人はハイタッチ。
 エリサは一緒に寝れるくらいアツシのことが気に入っていて、寝起きにハグしてキスしたり、もう恋人って感じの距離感。
「ねえ、くるって回ってみて? うん、よく似合ってるじゃない♪」
「アツシ!」
 アツシの装着した槍鞘の“映え(ばえ)”を見て、満足そうにうなづくエリサ。
「まあ出来はいいけど、でもピンクは変じゃねーか?」
「はあ? 女の子なら断然ピンクでしょ? 似合ってるわよ、アツシ!」
「はあっ?」
 いったい何を言っておるのだこやつは。
 アツシが女の子とかまた冗談を……男だよね、アツシ?
「アツシ……おまえ、女だったのか?」
「アツシ!」
 俺がおそるおそる問いただすと、アツシは力強く返事する。
「そ……そうか」
 そういや一緒にシャワー浴びたとき、玉も棒もそれらしき器官は見られなかったな。
 種族が違うしそういうものだと思って特に気にしなかったけど……。
「なんか悪かったな、アツシちゃん」
「アツシ!?」
 俺が気を遣ってそう言うと、とても嫌そうに首を振るアツシ。
 男二人に女二人……なんか俺のパーティが一気に華やかに思えてきたぞ。
 ツヨシ……おまえは俺の仲間だよな?

「ほら、アンタの分のナイフの鞘も作っといたわよ」
「おお……ありがとう」
 この子有能すぎひん?
 鋲打ちされた頑丈そうなナイフの鞘を放られ、俺はエリサに対する評価を少しあらためた。
 
 メスガキ→アイテム職人(NEW!)