「さあ、どうぞ!」
「……」
オイルタンクに『金田』とマジックで書かれた中古のカブが、赤く光る魔法陣の中から召喚されました。
なんか思ってたのとだいぶ違うバイクでしたが、提供してくれた(盗まれた)異世界の金田さんに悪いし、とりあえずお城まで走れればいいのでデレラは妥協しました。
気を取り直してバイクにまたがり、交通法規を守るためにステッカーがベタベタ貼られたフルフェイスのメットを被ります。
「王子様の服、とっても似合ってます!」
「考えをあらためてくれたかい?」
「う……素敵ですけど、それはダメです! デレラさんには絶対、お姫様になってもらいますから!」
「なんでそこまでこだわるかね……」
魔女には魔女の事情があるのでしょう。
お姫様姿の美しいデレラを想像して、祈るように指を組んで目に星を浮かべている魔女っ子さん。
デレラは説得をあきらめエンジンを噴かせました。
いざ、舞踏会場へ。
「そんな馬鹿な……!」
お城に着いたデレラは、そこで恐ろしい光景を目の当たりにしました。
「あーとッ! チャンピオン立てないッッ!! 新王者誕生~~~ッッ!! 絶対王者を下したその怪物の名は、黒き魔人ダンカン・イエリ~~~~ッッッ!!!」
「ま、マー姉が、負けた……!?」
地下の金網闘技場決勝ラウンドで、あの無敵のマー姉が前のめりに倒れて敗北していました。
狂ったようにゴングが打ち鳴らされ、サイボーグのように無表情な黒い肌の巨人ダンカン・イエリは、チャンピオンベルトを肩に両腕を挙げて歓声に包まれています。
紙吹雪が舞い、興奮した観客は総立ち。
耳が痛くなるほどの歓声の中、完全に気を失った血まみれのマスコが巨大な担架で運び出されていました。
「……おっと、舞踏会行かねーと」
デレラはそこでハッと思い出しました。
ちょっと気になって寄ってしまいましたが、本来の目的はチレーヌがちゃんと男の子に誘われるかの確認です。
マスコが負けてしまったのは衝撃的ですが、再起に期待しましょう。
「お通りください」
男爵家令嬢として招待状が送られていたデレラ。
モルボルがドレッサーに隠していたのを探し出し、バッチリいただいてきました。
ダンスホールの受付で招待状を渡し、スタッフ二人の手によって、大きな両開きの扉がゆっくりと開かれます。
まばゆい光があふれ、豪華絢爛たる舞踏会がそこでは開かれていました。
吹き抜けの広いホールではオーケストラによるスローテンポな音楽が流れ、思い思いに着飾った貴族の令嬢や子息がグラスを手に歓談し、優雅な踊りに明け暮れています。
「チー姉はと……」
200人以上はいるので少々探しましたが、休憩所でカチカチになって座っているチレーヌを発見。
なんと男の子二人から誘われているようです。
「お、チ―姉やるじゃん。でもちょっと硬いか……?」
せっかくのお誘いなのに、チレーヌは緊張で固まってしまっています。
このままでは貴族として礼を失するばかりでなく、つまらない女だと噂が広まるでしょう。
貴族社会はそういう陰湿なところもあるのです。
チレーヌもそれを重々承知しているため、男子の一人からお誘いを受けました。
緊張の面持ちのまま、ヒジまである白い手袋をした手をスッと差し出し、男子はヒザを落としそれを恭しく手に取ります。
「……」
ちょっとさみしい気持ちもありますが、チレーヌが無事に男の子と踊れてよかったと、デレラは満足げに会場をあとにしました。
「……」
オイルタンクに『金田』とマジックで書かれた中古のカブが、赤く光る魔法陣の中から召喚されました。
なんか思ってたのとだいぶ違うバイクでしたが、提供してくれた(盗まれた)異世界の金田さんに悪いし、とりあえずお城まで走れればいいのでデレラは妥協しました。
気を取り直してバイクにまたがり、交通法規を守るためにステッカーがベタベタ貼られたフルフェイスのメットを被ります。
「王子様の服、とっても似合ってます!」
「考えをあらためてくれたかい?」
「う……素敵ですけど、それはダメです! デレラさんには絶対、お姫様になってもらいますから!」
「なんでそこまでこだわるかね……」
魔女には魔女の事情があるのでしょう。
お姫様姿の美しいデレラを想像して、祈るように指を組んで目に星を浮かべている魔女っ子さん。
デレラは説得をあきらめエンジンを噴かせました。
いざ、舞踏会場へ。
「そんな馬鹿な……!」
お城に着いたデレラは、そこで恐ろしい光景を目の当たりにしました。
「あーとッ! チャンピオン立てないッッ!! 新王者誕生~~~ッッ!! 絶対王者を下したその怪物の名は、黒き魔人ダンカン・イエリ~~~~ッッッ!!!」
「ま、マー姉が、負けた……!?」
地下の金網闘技場決勝ラウンドで、あの無敵のマー姉が前のめりに倒れて敗北していました。
狂ったようにゴングが打ち鳴らされ、サイボーグのように無表情な黒い肌の巨人ダンカン・イエリは、チャンピオンベルトを肩に両腕を挙げて歓声に包まれています。
紙吹雪が舞い、興奮した観客は総立ち。
耳が痛くなるほどの歓声の中、完全に気を失った血まみれのマスコが巨大な担架で運び出されていました。
「……おっと、舞踏会行かねーと」
デレラはそこでハッと思い出しました。
ちょっと気になって寄ってしまいましたが、本来の目的はチレーヌがちゃんと男の子に誘われるかの確認です。
マスコが負けてしまったのは衝撃的ですが、再起に期待しましょう。
「お通りください」
男爵家令嬢として招待状が送られていたデレラ。
モルボルがドレッサーに隠していたのを探し出し、バッチリいただいてきました。
ダンスホールの受付で招待状を渡し、スタッフ二人の手によって、大きな両開きの扉がゆっくりと開かれます。
まばゆい光があふれ、豪華絢爛たる舞踏会がそこでは開かれていました。
吹き抜けの広いホールではオーケストラによるスローテンポな音楽が流れ、思い思いに着飾った貴族の令嬢や子息がグラスを手に歓談し、優雅な踊りに明け暮れています。
「チー姉はと……」
200人以上はいるので少々探しましたが、休憩所でカチカチになって座っているチレーヌを発見。
なんと男の子二人から誘われているようです。
「お、チ―姉やるじゃん。でもちょっと硬いか……?」
せっかくのお誘いなのに、チレーヌは緊張で固まってしまっています。
このままでは貴族として礼を失するばかりでなく、つまらない女だと噂が広まるでしょう。
貴族社会はそういう陰湿なところもあるのです。
チレーヌもそれを重々承知しているため、男子の一人からお誘いを受けました。
緊張の面持ちのまま、ヒジまである白い手袋をした手をスッと差し出し、男子はヒザを落としそれを恭しく手に取ります。
「……」
ちょっとさみしい気持ちもありますが、チレーヌが無事に男の子と踊れてよかったと、デレラは満足げに会場をあとにしました。