「どうして? 私、この前お母さんの誕生日に花束あげたけど、すごく喜んでくれたよ?」
「いや、男子に花は無理だわ。買うのも恥ずかしいし、渡すのなんてもっと無理」
「えー、そこは頑張ろうよ。それに花束だと、予算だけ伝えるといい感じにお花を選んでまとめてくれるよ?」
「いや、他のもので頼む」
「他のものかあ……」
うーん。難しいなあ。
花束、おしゃれなお菓子、入浴剤、香水、化粧品……思いつきはするけれど、なんせ今まで誕生日プレゼントを渡したことがないらしく、初めてのプレゼントにしてはどれも”買って””渡す”にはハードルが高いらしい。
「陶山のお母さん、今もお父さんの病院で一緒に働いているんだっけ?」
「そう。受付してる」
「それなら名前入りのボールペンは? 仕事で使ってもらえるじゃん」
「ボールペン?」
陶山の顔にはありありと”ただのボールペン?”と書かれている。
目は口ほどにものを言う、とは本当によく言ったものだ。
「ただのボールペンじゃないよ? 名前入りのボールペンだよ」
”名前入りの”を強調してもう一度伝えると、次はきちんと伝わったらしく、「そんなもの作れんの?」と返ってきた。
「うん。名前を入れてもらうだけならそんなに高くないんじゃないかなあ」
スカートのポケットからスマートフォンを取り出し、検索してみる。
「ほら、名前入りの4色ボールペン、1000円以下だよ」
「マジで? いいじゃん」
「うんうん。名前入りボールペンだったら、芯を変えればずっと使えるし、良いと思う。あ、見て、値段はあがっちゃうけれど、こんなのもあるよ」
画像を拡大してから、彼にスマートフォンを渡す。