【どうやって立ち直ったの?】

【その時、】

文章の途中で、高橋くんはふっと、顔をあげた。
遠くを見つめて、懐かしいような、戸惑いのような、なんとも言えない表情をした。

【その時、ちょうど転校の話が出た。環境が変わって辛かったことから物理的に離れられるから、もう一度だけ頑張ってみようかな、って】

高橋くんは驚くほど大人びた笑みを浮かべて、そして何かを見透かすかのように、真っ直ぐ私の目の奥を見つめた。

【忘れられたいのに忘れられないのって苦しいよね。その苦しみは俺なりに知っているつもりだから。だから、役に立つかわからないけれど、苦しい時はいつでも連絡して。一人でいるのが辛かったら、一緒にいるから】

「でも……」

首を傾げて続きを促してくれた彼に、弱々しく首を振る。

あと1か月も経たないうちに、高橋くんとは会えなくなる。
それどころか、高橋くんは私のことを忘れてしまう。

一緒に向日葵を見に行ったあの日のことも、
今のこの時間も、
全部全部高橋くんにとっては「なかった」ことになる。

私はあの世界に戻って、また一人ぼっちだ。
高橋くんがいないあの世界で、また一人ぼっちだ。

堪えていた涙が、咳を切ったように流れ出た。

【泣かないで。大丈夫。大丈夫だよ。大丈夫だから】

一緒にいたい。一緒にいてほしい。でも一緒にいられない。

寂しい。
高橋くんがいないことを考えるだけで心が張り裂けそうになるほど、悲しい。

高橋くんは小さい子を慰めるように、私の頭をゆっくりと撫でる。その手は暖かくて、余計に涙が溢れ出た。