いつもより丁寧に髪の毛をとかして、予定通りの時間に家を出る。
”世界が違う”といっても、正直、元いる世界とは大きく変わらなかった。
電車はあるし、電車に乗るには切符か交通系ICカードが必要だ。
券売機は、自分で金額を調べなくても、目的地を打てば機械が計算してくれるところが、元の世界よりも少しだけ便利だ。
迷うことを想定して家を出たから、待ち合わせの場所には十五分以上早く着いた。
どこで待とうかな。
どこで待てば気づいてもらえるかな。
グルッと辺りを見回すと、色素の薄い茶色の癖毛の男子が俯き加減でスマートフォンを操作していた。
高橋くん、もう来てたんだ。
驚かせないようにゆっくりと近づいて顔を覗き込むと、高橋くんはパッと顔をあげて、はにかんでみせた。
「おはよう」
声で伝えた私に、高橋くんは口の形で「おはよう」と伝えてくれた。
【今日、来てくれてありがとう。せっかくの土曜日なのに早起きさせちゃってごめんね】
【ううん、誘ってくれてありがとう】
【今日、楽しみにしてた】、付け加えられたメッセージに、じんわりと胸が温かくなる。
【私も】と返すと、高橋くんはまた、控えめに笑った。