その日の夜、明日のことを考えながらベランダでお茶を飲んでいると、隣から「順調そうですね」と柔らかい声が聞こえた。

ベランダに吹く風は、昼間からは考えられないほど少しひんやりとする。空気が澄んでいるからか、元の世界よりもずっと綺麗に星が見えた。

鈴木さんは初めて会った時とは違い、スーツではなくラフなスウェットを着ている。

「学校、楽しいですか?」

「まあ、それなりに」

「それはよかったです。せっかくこっちの世界に来たのに、『つまらない』と言われると、少し虚しいですからね」

鈴木さんは大きく伸びをした後、「でも困ったことがあれば、なんでも気軽に相談してください」と言ってくれた。

「あの、すごい今更ですけど、休日って自由に過ごしていいですよね?」

鈴木さんは夜空から私に視線を移すと、「もちろんです」と微笑んだ。

「明日、楽しんできてください」

「鈴木さんはどこまで私の行動を把握しているんですか?」

「まあ、それなりに」

この答え方だと、きっと明日高橋くんと出かけることも知っているんだろう。
なんだか恥ずかしいけれど、仕方がない。
最初に見せてもらった条件表にも「行動は把握する」と書かれてあった。
あくまでも私は、鈴木さんの所属する会社のプログラムのようなものに参加させてもらっている立場だし。

「いい日になるといいですね」と明るい声で言う鈴木さんにちょっとだけうんざりしながらも「ありがとうございます」と返すと、鈴木さんは私の胸の内を読んだかのように、面白そうに笑った。