「わかった」と答えたものの、私はこの世界のデートスポットは何も知らない。
そもそも元いた世界でもデートをしたことがない(恋人がいたことすらない)私にとって、異性と出かける場所を決めるのはなかなか難しいことだった。

どこに行こう、どこなら喜んでくれるだろう、高橋くんは音楽以外に何が好きなんだろう。

考えても考えてもわからなくて、今日何回目かわからないため息をついた時、

「何? 恋煩い?」

友梨ちゃんが振り向く。

「え? 恋? え?」

「慌てすぎ」

友梨ちゃんはおかしそうに笑うと「今日ずっとため息ついているけど、悩み事でもあるの?」と体ごと後ろを向いた。

「まあ、いや、大丈夫」

「そう? 何かあったら相談してね」

友梨ちゃんは「暑いね~」と下敷きで自分を仰ぐ。おこぼれでもらった人工的な風が、髪の毛を揺らした。

「……友梨ちゃんは、彼氏いるの?」

「彼氏? いるよ」

「そうなんだ!?」

「うん、といっても、二週間前に付き合ったばかりなんだけどね」

友梨ちゃんは少し恥ずかしそうに「ほら、あの奈々と話している短髪の人」と指差す。

指された方向に視線を移すと、奈々ちゃんと穏やかに話している男子生徒が視界に入る。

彼は確か。

阿部(あべ)くん、だっけ?」

「そうそう。阿部知樹(あべともき)

阿部くんを見つめる友梨ちゃんはとても幸せそうで、見ている私までなんだか胸がほっこりする。
「同じクラスに彼氏がいるのっていいね」と素直に思ったことを口にすると、友梨ちゃんは「そうだよね。毎日学校に来るのがすごく楽しみになったもん。頑張って告白してよかったよ」と微笑んだ。