「あっ……」

慌てて手に持っていたスマートフォンを操作する。

さすがに元の世界で持っていたスマートフォンは使えないらしく(厳密にいうと、操作はできるけれど通信ができないらしい)、昨晩鈴木さんからこちらの世界に対応しているものを借りた。
操作に不慣れさを感じながら、文字を打ち込んでいく。

【盗み聞きしてごめんね。ピアノ、すごい上手だね】

画面を見た高橋くんはかすかに目を見開き、照れくさそうに笑う。
彼が笑ってくれたことが嬉しくて、思わず私も口角が上がる。
次の文字を打ち込んでいた時、高橋くんは私が彼にしたように、自分のスマートフォンの画面を私に見せた。

【ありがとう。昨日、話しかけてくれたのに無視してごめん。俺、耳聞こえなくて】

ううん、と首を振る。
そもそも勝手に入ってきて話しかけ、驚かせてしまった。
高橋くんが謝ることは何もない。

私は打ちかけていた文章を完成させ、再度彼に見せた。

【私、高橋くんのピアノ、すごく好きだなって思った。ピアノ、習っているの?】

私の問いかけに、高橋くんはなぜか少し驚いたような表情を見せた。

【ありがとう。自分ではどんな演奏をしているかわからないから、そう言ってもらえると嬉しい】

「そんな、それって……」

控えめにはにかむ男の子を思わず見つめる。

わかっていたはずだった。
わかっていたはずだったけれどー……

彼はこんなに素敵な演奏をしているのに、
こんなにも誰かの心に響く演奏をしているのに、
演奏をしている彼自身は、この演奏を聞けないのか。

悲しいような悔しいような、よくわからない感情が一気に押し寄せてくる。
どんな顔をして彼と話せばいいのかわからなくなってしまって、私は俯いた。