あんなに土砂降りだった雨も、一時間も経てば傘が無くてもいいぐらいの降り方になっていた。ドライヤーで乾かした服からは、温風に気持ちが乗った分の温もりが感じられる。
それなのに、隣を歩く彼の姿は普段よりもちっぽけで、何か隠しているような、そんな気がした。
「なあ」
「え、咲佑なんか言った?」
「なあ、って言ったけど、凉樹も何か言ったよね?」
「俺も、なあ、って」
「嘘だろ、被った」
「だな。え、この二音で被ることある?」
「面白いな」
「似てんのかな、俺らって」
凉樹は俺の顔を見てきた。愛想笑いを浮かべていた。
ちゃんと耳には彼の声が届いているし、内容も理解している。似ていると言われて嬉しいはずなのに、何も言えなかった。従順な態度が取れなかった。
「で、凉樹は何言いたかったんだ?」
「俺さ、咲佑に言わなきゃいけないことがあるんだよ」
「それってさ、聞いて後悔する内容?」
「お前次第」
「そっか」
笑うしかない。俺次第って、何だよ。
「咲佑も俺に話があるんだろ?」
「あぁ、まあな」
「それはさ、咲佑が俺に話すことで幸せになれる内容?」
「あぁ、まあな」
「じゃあさ、先に言ってよ。俺のは後でも全然いいから」
「ホント? 後悔しない?」
彼は俺の目を見て頷いた。吹いた風に靡く彼の茶髪。甘い香りがした。
凉樹の顔を、目を見れず、前だけを見ながら動画配信番組への出演が決まったことと、同性愛者の役のオーディションを受けることになった、という二つの話題を伝えた。凉樹は「おめでとう、よかったな」と言ってくれた。ただ、その発言は心からの、と言うよりは、上部だけで言っているような感じだった。
俺はいつもと様子が違う凉樹のことを不思議に思いながらも、会話が途切れるのが嫌で、番組の内容や過去に受けたオーディションの話を一方的に喋り続けたが、徐々に話に対する彼の相づちが合わなくなっていく。
ついには、そのことに耐えられなくなった。心配になり横を見ると、凉樹は歩いてはいるものの、心ここにあらずという様子で、倉皇としている。
「凉樹」
「ん?」
「様子が変だよ」
「そうか?」
彼は俺の発言に面食らったようだ。
「さっきから俺の話、全然聞いてないだろ」
「そうか?」
今度は俺の発言に心を掻き乱されたようだ。
「じゃあ、今さっき俺がなんて言ったか憶えてる?」
彼は頭を掻きながら、申し訳なさそうに呟いた。「・・・、悪い」
「やっぱりな」
呆れたいわけじゃないけど、昔の自分を見ているような気がして、自然と笑えてくる。涼樹も隠し事はできないタイプなんだな。
「嘘だね。凉樹が俺に話したい内容って、隠し事のことなんだろ?」
「いや、その―」
「俺は、凉樹の話ならどんなことでも受け止める覚悟ができてる。だから、ちゃんと面と向かって話して欲しい」
歩みを止める咲佑。高い位置から照りつける日差しによって、背中に汗が滲む。
「俺は・・・」
前に歩き出す凉樹。風に弄ばれる髪の毛についた、小さな葉っぱ。
「俺は、大切な咲佑のことを裏切った、最低な男だ」
彼は、美しい瞳から一滴の雫を溢した。
太陽に照らされた影は、前を歩く影を抱き竦めた。
それなのに、隣を歩く彼の姿は普段よりもちっぽけで、何か隠しているような、そんな気がした。
「なあ」
「え、咲佑なんか言った?」
「なあ、って言ったけど、凉樹も何か言ったよね?」
「俺も、なあ、って」
「嘘だろ、被った」
「だな。え、この二音で被ることある?」
「面白いな」
「似てんのかな、俺らって」
凉樹は俺の顔を見てきた。愛想笑いを浮かべていた。
ちゃんと耳には彼の声が届いているし、内容も理解している。似ていると言われて嬉しいはずなのに、何も言えなかった。従順な態度が取れなかった。
「で、凉樹は何言いたかったんだ?」
「俺さ、咲佑に言わなきゃいけないことがあるんだよ」
「それってさ、聞いて後悔する内容?」
「お前次第」
「そっか」
笑うしかない。俺次第って、何だよ。
「咲佑も俺に話があるんだろ?」
「あぁ、まあな」
「それはさ、咲佑が俺に話すことで幸せになれる内容?」
「あぁ、まあな」
「じゃあさ、先に言ってよ。俺のは後でも全然いいから」
「ホント? 後悔しない?」
彼は俺の目を見て頷いた。吹いた風に靡く彼の茶髪。甘い香りがした。
凉樹の顔を、目を見れず、前だけを見ながら動画配信番組への出演が決まったことと、同性愛者の役のオーディションを受けることになった、という二つの話題を伝えた。凉樹は「おめでとう、よかったな」と言ってくれた。ただ、その発言は心からの、と言うよりは、上部だけで言っているような感じだった。
俺はいつもと様子が違う凉樹のことを不思議に思いながらも、会話が途切れるのが嫌で、番組の内容や過去に受けたオーディションの話を一方的に喋り続けたが、徐々に話に対する彼の相づちが合わなくなっていく。
ついには、そのことに耐えられなくなった。心配になり横を見ると、凉樹は歩いてはいるものの、心ここにあらずという様子で、倉皇としている。
「凉樹」
「ん?」
「様子が変だよ」
「そうか?」
彼は俺の発言に面食らったようだ。
「さっきから俺の話、全然聞いてないだろ」
「そうか?」
今度は俺の発言に心を掻き乱されたようだ。
「じゃあ、今さっき俺がなんて言ったか憶えてる?」
彼は頭を掻きながら、申し訳なさそうに呟いた。「・・・、悪い」
「やっぱりな」
呆れたいわけじゃないけど、昔の自分を見ているような気がして、自然と笑えてくる。涼樹も隠し事はできないタイプなんだな。
「嘘だね。凉樹が俺に話したい内容って、隠し事のことなんだろ?」
「いや、その―」
「俺は、凉樹の話ならどんなことでも受け止める覚悟ができてる。だから、ちゃんと面と向かって話して欲しい」
歩みを止める咲佑。高い位置から照りつける日差しによって、背中に汗が滲む。
「俺は・・・」
前に歩き出す凉樹。風に弄ばれる髪の毛についた、小さな葉っぱ。
「俺は、大切な咲佑のことを裏切った、最低な男だ」
彼は、美しい瞳から一滴の雫を溢した。
太陽に照らされた影は、前を歩く影を抱き竦めた。