頬を伝う涙。近くで聞こえる乱れた吐息。早くなる心拍数。伝わる熱-

ふと我に返った瞬間に、肩から乾いた音が鳴った。

「あ、ごめん。つい」
「あ、いや。べつに」

気まずい空気が流れ出す。そんな二人の近くを、制服姿の男子三人組が、自転車で細かな水しぶきをあげながら走り去っていく。

「あのさ、裏切ったってどういうこと?」
「・・・」
「俺は凉樹に揶揄われたくない。本当のこと言って」
「・・・・・・、ごめん」
「何が?」
「・・・」

俺がとった態度は、反抗期で素直に謝ることが子供のようだった。それに対し、咲佑は深い息を吐く。

「だから、何が?」
「ごめん」
「ごめん、ごめん・・・って。凉樹、しつこいよ」
「・・・」

 何をどう言えばいいのか分からなくなった自分のことが惨めだ。

「凉樹、謝るだけじゃ分からない。あぁ、もう! こんなところで怒りたくないけどさ、我慢できない。なぁ、俺のこと裏切ったって何なんだよ! どういうことか説明してくれよ!」
「・・・」
「黙ってんじゃねぇよ。ちゃんと目見て言えよ」
「・・・、ここじゃ説明できない」
「じゃあどこで―」
「俺ん家、じゃダメか?」

 仕方ないという感じで頷いた咲佑。実際、自宅に連れていくつもりはなかった。本当はどこか公園にでも行って、二人で面と向かって話し合いをするつもりだった。連れて行きたくない理由は二つあった。一つは、咲佑が家に遊びに来ていた頃よりも散らかっているから。二つ目は、奏からのプレゼントも片付けられていないから。

でも、逆に家に招き入れることは、いい機会かもしれないとも思った。俺と奏さんの関係を知れば、きっと咲佑は俺との恋を諦めてくれるはず・・・。

 咲佑は目の前にある浅そうな水たまりをわざと踏む。小さな水しぶきが無数に飛び散り、路面に落ちていく。それをどこか寂し気な目で見る咲佑。そして、歩道にできた大きな水たまりに映る自分に別れを告げていた。