今は三限目の授業中。今朝まではなんともなかったのに、頭痛がする。
 昨日の夜ゲームをやり過ぎたせいか……?

 座ってることすら辛くなってきた。このまま机に突っ伏したいが、そんなことをしたら授業中に寝ている奴だと思われるしな……。



「三倉。お前具合悪い……?」

 俺の斜め後ろに座っている浅宮が、授業中にも関わらず席を立って声をかけてきた。

「うん……どうだろ……」

 頭は痛いし寒気もするが、よくわからない。

「先生っ!」

 浅宮が手を上げた。

「三倉、保健室連れていってもいいですか? なんかヤバそうなんで」

 浅宮の申し出に教師も「わかった。頼む」と返した。

「三倉。立てるか?」

 立とうとして気がついた。かなりフラフラする。浅宮の肩を借りつつ、保健室へ駆け込んだ。




 保健室で横になっていたら少し身体が楽になってきた。
 でも、気になるのはずっとそばに浅宮がいることだ。

「ありがとう浅宮。授業中だしもう俺ひとりで大丈夫だから」

 こんなにずっと浅宮を付き添わせちゃ悪い。

「みっ、三倉、なんか要る? 水でも持ってこようか? 頭冷やすのもう少しもらってこようか? なんか俺にできること……ないかな……」

 まったく、教室に戻っていいって言ってるのに……。

「俺は三倉が心配だからそばにいたいけど、三倉的には俺がいたら眠れないか……」

 浅宮は寂しそうに微笑んだ。
 こんなに心配してくれるなんて、浅宮は友達思いな奴なんだな。


「わかった。じゃあここで少しだけサボってけよ」

 そう言ってやると浅宮がぱっと顔を上げた。
 俺はゆっくりと身体を起こす。それを咄嗟に浅宮が「大丈夫か、無理すんな」とサポートしてくれた。

「大丈夫だよ。そうだ、有栖の話でもしようか?」

 俺の提案に浅宮はうんうんと力強く頷いて「なんでもいいから三倉と話がしたい」とキラキラ目を輝かせている。
 こいつ。急に嬉しそうだな。
 授業よりも有栖が大事なのか。


「中学の卒業式の時はすごかったんだ。その日一日で有栖が何人に告白されたと思う?」
「そんなにすごいのか……? わかんねぇ、五人くらい?」
「十一人だ。すごいよね。有栖に告白するのに待機してる人の数を見て、諦めた人もいたんじゃないかって俺は思ってる」
「すっげ……」

 あ、やば。浅宮が軽くショックを受けてる。そんな話を聞いたらさすがの浅宮でも有栖と付き合えるかどうか不安になっちゃうよな。

「でっ、でも浅宮。お前も有栖と同じくらいモテるだろ? だから大丈夫だ!」

 今更ながらに適当なフォローを入れてみたが、浅宮は「別にモテなくていい。ただひとりだけ、俺の好きな人だけ振り向いてくれればそれでいいのに……」とうつむいている。

「そっか……」

 そうだよな。浅宮は有栖さえ好きになってくれたらって思ってるんだよな……。
 有栖はちょっと中性的な美形だし、男の浅宮が好きになるのも頷ける。実際、中学校の頃も有栖は女子だけでなく、男からも告白されていた。
 有栖は人気があるから、ビジュアル最強男の浅宮でも振られてしまうかもしれない。

 

「俺も協力するよ」
「きょ、協力って何を……?」
「浅宮と有栖がうまくいくようにだよ」
「えっ……!」

 浅宮は死ぬほど驚いている。どうやら俺には有栖への気持ちはバレてないと思ってたようだ。でもはっきり言って、あんなにわかりやすく熱っぽい目で有栖を見てたら誰だって勘づくと思う。

「隠すなよ。大丈夫だ。俺は誰にも言わないから」

 そう言ってやってるのに、浅宮はとても困った顔をしている。
 まぁ、そうだよな。まさか男に惚れてるなんて絶対誰にも知られたくなかっただろうから。



「だからか……。だから三倉は俺とカフェに行ったりLINE教えてくれたりしたんだ……」
「そうだよ」

 え? 逆にそれ以外になんの理由がある?!

「別に、俺とどうこうなりたいわけじゃなくて……」
「いや、浅宮とは友達になりたいと思ってるけど」
「とも……だち……か……」

 どうしたんだよ浅宮。落ち込み過ぎだ。
 しばらく苦しそうな表情をしていた浅宮だが、「それでもいいっ」と急にガバッと顔を上げた。


「わかった。三倉。協力してくれ。これからも俺を助けてくれないか?」

 なんだよコロッと態度を変えて……。まぁ、協力するけど。だって浅宮は実は結構いい奴だし。

「うん。いいよ」
「ホントか? じゃあ今まで通り、俺と一緒に過ごしてくれる……?」
「もちろん」

 なんなんだ? そんな当たり前のことを確認したがって……。


「最後に」

 浅宮は、急に真面目な顔になる。浅宮がずいっと顔を近付けてきたから間近で浅宮を見ることになって、なんかドキドキした。だって浅宮は非の打ち所がないくらいキレイな顔をしているから。

「三倉は、有栖と付き合わない。それでいいよな?」
「へっ?!」

 急にそんなことを言われてびっくりした。そうか、有栖は親友だと思ってたからそんな目で見たことはないけど男同士のそういう関係だってあり得るよな……。
 浅宮は男が恋愛対象みたいだし、常に有栖のそばにいる俺の存在を不安に思っていたのかもしれない。

「だってそうだ。三倉は俺のこと応援してくれるんだろ? だったらお前が有栖と付き合うなんてことしないよな」

 浅宮は真剣だ。そんなに有栖のことを本気で想ってるんだな。

「うん。付き合わない。浅宮のこと応援するよ」

 俺がそう言い切ると、浅宮はほっとした顔をした。

「ありがとう。ごめんな、具合悪いのにたくさん話をして……」
「いいよ、もともと俺から言い出したんだから」

 そうは言ったものの、少し辛くなってきて再び保健室のベッドに横になる。
 それをみて浅宮が「ごめん。俺のせいだ」と心配そうな顔で覗き込んできた。

「俺、少し寝る……」

 頭がクラクラする。俺は布団に潜り込み目を閉じた。

「ごめん……三倉……」

 浅宮はもう一度謝ってきた。
 返事をしようと思ったけど、身体のだるさのせいで「ううん……」と返しただけ。

「お前の優しさにつけ込むような真似をして
……」

 浅宮が何か話しかけているようだが、なんか頭ボーッとするし、眠くなってきて、うまく聞き取れない。

「でも嫌なんだ。耐えられない。他の奴なんかに渡したくないんだよ——」