ヘンリックとブリーズ国の魔法士長クラークはグラン国の隣の国にあるゲートまで来た。
ここからは馬車で移動をする。
今日中に到着する予定だ。
ヘンリックは急に会いに行ったらアリーナびっくりするだろうなと少しにやけて想像をした。
馬車の中でクラークとヘンリックは石の特徴や解除方法を相談した。石がへンリックだと解除が出来るような話をしていたことを伝えた。
クラークは「ヘンリック様は魔力が少ない様に見受けられますが?石のいう事に何か心当たりはありますか?」
「いやぁそれがわからないんですよ。」
「もしや、ご幼少期に何かありませんでしたか?」
「う〜ん。幼少期のことは両親に聞いてみないとわかりませんね。あんまり記憶がないもので。」
「そうですか。ご両親に少しお話しをさせてもらってもいいでしょうか?」
「それは構いませんよ。」
クラークはヘンリックに何かを感じているようだった。
まずは、石を持っているアリーナの所へ。
夜、グラン国に着いた。
遅い時間だったためアリーナの所へは明日行くことにして、まずはヘンリックの屋敷にやって来た。
ヘンリックは両親と兄ビルハーグに事情を話した。
アリーナに贈った石が呪われていた事を知り
「へンリック、なんてことでしょう」と母が嘆いた。
「とても綺麗だったから……。気付かなくて…。ブルーノが気が付いて…害はないってことなんだけど。」
「ブルーノは聖獣だからな。へンリックは魔力が少ないから気付かなくても仕方がないよ。」
「どうしてみんなと違って僕だけ魔力が少ないんだろうね。」
「そんなに落ち込むなって。魔力が少なくたってお前は優秀なんだから。」兄はそう言って慰めた。
「そ、そうね。」
「もう少し魔力が強ければ…よかったんだけど。ごめんね。」
「………。」
そこでクラークが
「石が言うには、呪いを解く鍵はへンリック殿にあるとのことです。何か心当たりはありませんか?」と両親に聞いた。
「例えばヘンリック殿は幼少の頃の記憶が無いと伺いましたが何かあったのではないですか?」
「……。」
「あなた…。」
「…そうだな、ヘンリックも大人になったしな。隠す必要は無いな。」
「えっなになに?なんかあるの?」と兄が聞いた。
父は「お前はヘンリックが生まれた頃の事を覚えているか?」兄に言った。
「ヘンリックが生まれてすぐに別邸で過ごしたりホワイティス家にお世話になったりしてこの屋敷にはいなかったよね。5年ぐらいかな?」
「そうだ、この屋敷にお前を置いておけなかったんだ。」
ヘンリックの両親は話しを始めた。
王家の血筋のアンダーソン家では代々魔力を持つ者が生まれる。その中でもたびたび強い魔力を持って生まれる者がいる。王宮や魔塔に魔法士として登用される者もいた。魔力が大きすぎて制御が出来ずに幽閉されてしまう者もいた。
ヘンリックは生まれた時に魔力が非常に強かった。感情が高ぶり泣けば窓ガラスが割れたり花瓶が割れたりドアが飛ばされたりした。父や母の魔力では抑えきれずまわりの者が怪我や火傷を負う事もあった。それでも両親や乳母は諦める事なく愛情を持って育てた。
ヘンリックの兄は安全のために別邸で過ごしていてヘンリックの魔力のことは知らせなかった。
ヘンリックが5歳になったある日、飼っていたウサギが野犬に襲われて死んでしまった。ヘンリックは悲しくてなかなか泣き止まなかった。それを乳母がなだめるために抱こうとした時に魔力が暴走し爆発をおこしてしまった。庭の草木は倒れ周りにいた者は怪我を負った。中でも近くにいた乳母は大怪我だった。後に乳母はその怪我がもとで亡くなってしまう。怪我こそ軽く済んだへンリックだったが自分を責めてひどく泣いた。泣いている間は部屋だけでなく屋敷中がひどく壊れ、凍りついた。誰も近づくことができなかった。ある程度泣いたあとに気を失った。目を覚ました時は以前の記憶を全て失くしてしまっていた。あのウサギや乳母の事も。両親はヘンリックが幽閉されるかもしれないと思った。
両親は友達であるホワイティス伯爵夫婦に相談をした。すると教会ならなんとかしてくれるかもしれないとホワイティス伯爵が言った。
そこで、両親が教会に行くと神官が話を聞いてくれた。
神官によると魔力には白、黒、青、緑、赤、の魔力の種類があるがヘンリックは全てをもつ珍しいタイプだという。まだ身体も小さいく魔力の器が小さいので感情が高まると違う魔力同士がぶつかり合い器からはみ出て暴走が起きる。そこで、神官は個々の魔力を小さく圧縮をして小さな器の中に封印する事を提案した。
ただし封印は永遠ではない、いずれは封印を解く事になると神官は言った。
両親は神官に封印をお願いした。
封印後、魔力暴走は起きる事もなくなった。魔力は使えなかったが普通の子供と変わらずに育ち両親は安心した。
これからは家族一緒に暮らせると喜んだ。
「それで僕は別邸に行かされていたのか。」
「僕は兄上やみんなに迷惑かけていたんだね。知らなくて本当にごめんね。僕のせいで人が死んでいたなんて……。」ヘンリックは涙を流して両親と兄に謝った。
「仕方なかったんだからしょうがないよ。俺は少し寂しかったけど、そのあとはみんな一緒だったじゃないか。」と兄は肩を抱いてそう言った。
「迷惑だなんて…あなたは私達の大切な子供なんだもの。」
「そうだな。大切な家族なんだ。乳母のことがあったから話さなかった。優しいお前の事だから気に病むと思っていた。出来れば忘れたままの方がいいとさえ思っていたんだ。」両親も涙を流した。
そして皆が泣き止み、落ち着いた頃、クラークが話し始めた。
「やはり、ヘンリック殿は白魔力をお持ちだったんですね。白魔力はほとんど持つ者がいない珍しいものです。特徴は浄化、回復、再生ができます。そのため国によっては利用価値があるので本人の意思を無視し劣悪な環境で幽閉し囲っているところもあります。おそらくその白魔力で呪いを浄化ができるはずです。ヘンリック殿の封印の解除は可能なのでしょうか?」
エンリックの父が「それは可能だと思う。神官長は封印は永遠ではないと言っていた。」
「あなた。封印を解いてしまっても大丈夫なの?」母は心配で父にきく。
「もう大人になったから子供のときみたいにはならないと思うが…。いずれは魔力を解放をするべきだろう…それは教会の判断を聞いてみないとわからないが。」
「僕は封印を解いて魔力を解放したいと思います。」
「お前がそう思うのならまずは教会に行ってみるといい。」
「わかった。そうするよ。」
そこで話を終えそれぞれ部屋へ行き休むことになった。
ヘンリックはベッドに入ってもなかなか眠ることが出来なかった。
記憶は戻らなかった。
乳母はどんな人だったんだろう。
僕のことをきっと恨んでいるだろうな…。
ちゃんと謝りたい。
ごめんなさい。ごめんなさい。
記憶に無い乳母を思い涙が沢山溢れた。
そうして夜は更けていった。