■都内某所
——20XX年 12月24日
世間はクリスマスムードに包まれている中、俺はパソコンのキーボートをカタタタとリズミカルにたたきながら、工場システムのデバッグをしていく。
工業系大学を出て、就職したシステム会社はいわゆるFA系であり大規模な工場をスムーズに動かすためのプログラムを整備する仕事だった。
やりがいはあり、給料も高い方だが激務すぎる。
クリスマスだというのに、俺一人オフィスにいて、最終調整をしているくらいだ。
「俺、この仕事が終わったらスローライフするんだ……」
我ながら、最高にフラグだなと思いつつ、薄れゆく意識の中でつぶやくとエンターキーを叩く。
そこで俺の意識は消えた。
■????
「ああ、私の坊や……よくぞ生まれてくれました」
「陛下、見てください……立派な男の子ですよ」
「母上! 僕の弟ですか?」
俺が目覚めると、ふくよかなおっぱいが目の前にあった。
手を伸ばして触ると、俺の手はかなり小さい。
「おぎゃあ!?」
驚きに声をあげたら、赤ん坊の泣き声がする。
俺の声だと気づくのに10秒ほどかかった。
これが噂の異世界転生か!?
「ちっちゃーい」
5歳くらいの少年が俺の頬を突っついてくる。
俺のこの世界での兄らしい、将来は美女を侍らすイケメンになるだろうと予想できるほど顔が整っていた。
将来の俺にも期待できそうではある。
「レオニス、離れていろ……おい、魔力測定を行え」
「かしこまりました、皇帝陛下」
偉そうにいってくるおっさんは皇帝陛下と呼ばれているので、偉いようだ。
あごひげをたくわえた堀の深い顔をしているので、ナイスミドルといえる。
うやうやしく頭を下げたおじいさんが下がると、水晶を持って戻ってきた。
「父上、僕の弟だから魔力だってすごいですよ!」
「それを確かめるためにみるのだ、レオニスよ」
おっさんが子供をなだめていると、水晶をもったおじいさんが俺の前に水晶を突き出す。
小さな俺の手がその水晶を触ると……光らなかった。
こういうときって、バーッと光って「なんということだ!?」とか、そういうリアクションがあるものだろ?
「陛下、恐れながら申し上げます。第七皇子様ですが魔力がほとんどありません……生活するのがやっとでしょう」
「そんな……私の坊やが……」
クラっと血の気の引いた母親が倒れそうになるのをメイドが掴んで支えてくれる。
皇帝陛下の方は静かに、つまらなそうに母親を見下ろしていた。
しばらくそうしていたが、すぐに近くにいた部下に告げる。
「ルシアの最近の行動について証言を集めろ、この子は私の子供ではない」
「はっ!」
部下が恭しく礼をすると部屋を後にした。
言い方に妙な違和感を感じつつも、俺は赤ん坊なので何もできずに見続けるしかない。
そのことが悔しく、ただただ泣いた。
◇ ◇ ◇
僕が生まれてから5年がたった。
母と僕は後宮の片隅で静かに生きることを余儀なくされている。
「アリオス! ほら、かかって来いよ!」
「くそっ! えええいっ!」
殴りかかる僕に向けて、僕の兄と名乗ったレオニスは〈風魔法:突風〉を使ってぶつけて、芝生の上に僕を転がす。
レオニスは母と僕を静かに生かしてくれず、ちょっかいをかけてはバカにしてきた。
彼は10歳であり、魔法を巧みに使いこなす才能をいかんなく発揮している。
僕の方は魔法については全く使えなかったが、もともと前世では魔法なんかなかったので気にはならなかった。
ただ、母であるルシアの精神的疲労の方が大きく、問題を起こさないよう行儀よく立ち回るしかない。
「レオ! アリーをいじめるのはダメー!」
そんなレオニスと俺の間に入ってくる女の子が一人だけいた。
海を隔てたヴァルトリア王国の王族、クラリスである。
エルトゥールには味方はいないが、国が違うのでフラットな視線で対応してくれるありがたい存在だった。
年1回、数日の訪問のために来てくれている彼女の存在が僕にとって救いである。
「クラリス……僕に構わないで、ください」
芝生の上に立ち上がって、クラリスに声をかけた。
「アリ―だって、皇子なのだからもっとシャンとしなきゃダメよ? レオも、お兄ちゃんなら弟を大事にしなくちゃ!」
綺麗な銀髪の少女にそういわれると、僕も、レオニスも黙ってしまう。
僕らはこの小さなお姫様には頭が上がらないのだ。
「クラリス、帰り支度をしなさい。学校が始まるから、本国に戻ってその準備だよ」
「はい、お父様! じゃあ、アリーも、レオも兄弟仲良くしてね? 私は数年学校に通わないといけないから……」
僕は彼女の言葉に絶望を感じる。
年1度会いに来て、仲良くしてくれていたクラリスのお陰で僕と母は生かされていたのだ。
「さようなら、クラリス……」
「アリオス、お前も終わりだな」
手を振ってさっていくクラリスの後ろ姿をみていると、レオニスがニヤニヤと俺を見てくる。
この先の未来を暗示する笑顔だった。
——僕らは翌日、療養という名目の無人島への島流しが決った。
——20XX年 12月24日
世間はクリスマスムードに包まれている中、俺はパソコンのキーボートをカタタタとリズミカルにたたきながら、工場システムのデバッグをしていく。
工業系大学を出て、就職したシステム会社はいわゆるFA系であり大規模な工場をスムーズに動かすためのプログラムを整備する仕事だった。
やりがいはあり、給料も高い方だが激務すぎる。
クリスマスだというのに、俺一人オフィスにいて、最終調整をしているくらいだ。
「俺、この仕事が終わったらスローライフするんだ……」
我ながら、最高にフラグだなと思いつつ、薄れゆく意識の中でつぶやくとエンターキーを叩く。
そこで俺の意識は消えた。
■????
「ああ、私の坊や……よくぞ生まれてくれました」
「陛下、見てください……立派な男の子ですよ」
「母上! 僕の弟ですか?」
俺が目覚めると、ふくよかなおっぱいが目の前にあった。
手を伸ばして触ると、俺の手はかなり小さい。
「おぎゃあ!?」
驚きに声をあげたら、赤ん坊の泣き声がする。
俺の声だと気づくのに10秒ほどかかった。
これが噂の異世界転生か!?
「ちっちゃーい」
5歳くらいの少年が俺の頬を突っついてくる。
俺のこの世界での兄らしい、将来は美女を侍らすイケメンになるだろうと予想できるほど顔が整っていた。
将来の俺にも期待できそうではある。
「レオニス、離れていろ……おい、魔力測定を行え」
「かしこまりました、皇帝陛下」
偉そうにいってくるおっさんは皇帝陛下と呼ばれているので、偉いようだ。
あごひげをたくわえた堀の深い顔をしているので、ナイスミドルといえる。
うやうやしく頭を下げたおじいさんが下がると、水晶を持って戻ってきた。
「父上、僕の弟だから魔力だってすごいですよ!」
「それを確かめるためにみるのだ、レオニスよ」
おっさんが子供をなだめていると、水晶をもったおじいさんが俺の前に水晶を突き出す。
小さな俺の手がその水晶を触ると……光らなかった。
こういうときって、バーッと光って「なんということだ!?」とか、そういうリアクションがあるものだろ?
「陛下、恐れながら申し上げます。第七皇子様ですが魔力がほとんどありません……生活するのがやっとでしょう」
「そんな……私の坊やが……」
クラっと血の気の引いた母親が倒れそうになるのをメイドが掴んで支えてくれる。
皇帝陛下の方は静かに、つまらなそうに母親を見下ろしていた。
しばらくそうしていたが、すぐに近くにいた部下に告げる。
「ルシアの最近の行動について証言を集めろ、この子は私の子供ではない」
「はっ!」
部下が恭しく礼をすると部屋を後にした。
言い方に妙な違和感を感じつつも、俺は赤ん坊なので何もできずに見続けるしかない。
そのことが悔しく、ただただ泣いた。
◇ ◇ ◇
僕が生まれてから5年がたった。
母と僕は後宮の片隅で静かに生きることを余儀なくされている。
「アリオス! ほら、かかって来いよ!」
「くそっ! えええいっ!」
殴りかかる僕に向けて、僕の兄と名乗ったレオニスは〈風魔法:突風〉を使ってぶつけて、芝生の上に僕を転がす。
レオニスは母と僕を静かに生かしてくれず、ちょっかいをかけてはバカにしてきた。
彼は10歳であり、魔法を巧みに使いこなす才能をいかんなく発揮している。
僕の方は魔法については全く使えなかったが、もともと前世では魔法なんかなかったので気にはならなかった。
ただ、母であるルシアの精神的疲労の方が大きく、問題を起こさないよう行儀よく立ち回るしかない。
「レオ! アリーをいじめるのはダメー!」
そんなレオニスと俺の間に入ってくる女の子が一人だけいた。
海を隔てたヴァルトリア王国の王族、クラリスである。
エルトゥールには味方はいないが、国が違うのでフラットな視線で対応してくれるありがたい存在だった。
年1回、数日の訪問のために来てくれている彼女の存在が僕にとって救いである。
「クラリス……僕に構わないで、ください」
芝生の上に立ち上がって、クラリスに声をかけた。
「アリ―だって、皇子なのだからもっとシャンとしなきゃダメよ? レオも、お兄ちゃんなら弟を大事にしなくちゃ!」
綺麗な銀髪の少女にそういわれると、僕も、レオニスも黙ってしまう。
僕らはこの小さなお姫様には頭が上がらないのだ。
「クラリス、帰り支度をしなさい。学校が始まるから、本国に戻ってその準備だよ」
「はい、お父様! じゃあ、アリーも、レオも兄弟仲良くしてね? 私は数年学校に通わないといけないから……」
僕は彼女の言葉に絶望を感じる。
年1度会いに来て、仲良くしてくれていたクラリスのお陰で僕と母は生かされていたのだ。
「さようなら、クラリス……」
「アリオス、お前も終わりだな」
手を振ってさっていくクラリスの後ろ姿をみていると、レオニスがニヤニヤと俺を見てくる。
この先の未来を暗示する笑顔だった。
——僕らは翌日、療養という名目の無人島への島流しが決った。