第二話 約束

 入院をしてから約一ヶ月。外はまだまだ蒸し暑いが、今日は退院の日だ。
「退院おめでとう。」
 りゅうとだけ迎えにきた。
(この言葉、聞いたの何回目だろ。分からないな。)
 りんきは、心の中でこっそり、そう思っていた。

「ただいま。」
 一ヶ月ぶりの家。だが、いつもより暗いようだ。
「どこ行ってたの」
 奥から母が出てきた。が、その姿は残酷だった。ひどい怪我。叩かれた痕がたくさんあるし、父だけ家にいないところを見ると、おおよその予想ができる。
「父さんは、?」
 りんきが聞いた。でも、帰ってくる言葉は
「どこ行ってたのかって聞いてるの...」
 だった。
「病院だよ。入院してたの。話したでしょ。」
 すかさずりゅうとが説明する。
 りんきは何がどうなっているのかわからず、ただ立ちすくんでいた。
「大丈夫...?」
 部屋の角にちょこんと座っているあやかに、りんきが手を差しのべる。
 が、パシッとはたかれてしまった。
「っ...!?」
 りんきは絶望した。大切な家族がバラバラになってしまっていたからだ。
 どうすることもできない自分にただ、腹が立っていた。

 一晩越して、朝になった。
 母は昨日よりも機嫌が悪そうで、怖かった。
「ご飯作るね」
 母に伝えると、殴られた。衝撃で言葉が出なかった。
「...!?」
 強い。逆らえなかった。そのまま気を失った。


 目覚めたときにはもうすでに夜だった。十四時間以上気絶していたのだ。
 りゅうとは、りんきに声をかけた。
「約束...できる?」
 りんきは頷く。りゅうとは続けて話す。
「どんなに生活が苦しくなっても、どんなに虐待を受けても、どんなにつらくてもみんなが家族という事実は変えられない。いいか、りんき。俺はこれから先理性を保っていることが出来なくなるかもしれない。みんなもそうだ。だから、りんきだけはずっと理性を保っているって約束してくれ。将来、りんきがつらくなっても今までに起きたことと比べたら百倍以上マシって思うことも出来るようになる。つまり、打たれ強くなれる。だから、メンタルを強くするためにも、頑張って耐えてくれ。これは、りんきにしかできない頼み事...りんきとしかできない約束だ。頼む。約束、してくれないかな?」
 りんきは少量だが涙を流しながら答えた。
「当たり前、だよ。お兄ちゃん。絶対に約束してみせる。大人になってもずっと約束する。『兄弟の絆』に誓って。」
「ありがとう...俺の大事な弟くん...」
 二人は泣きながら約束をした。