淡色の君と、透明なセカイ

「いずみん、何してたの?」私の隣で、笑菜ちゃんが言う。

「近くに色々売ってるとこあったから、目星つけとこうと思って」頭につけるやつとか、光るステッキとかあった、と教えてくれる。



アトラクションの列に並んでしまったせいでここからは見えないけど。

あとで見に行こうという話になった。


そういえば、‥‥‥。




「早く乗れるのに、こっちでも並ぶんですね‥‥‥‥?」


「うん。チケット売り場、結構人いたし‥‥‥」チケット取ったの、同じくらいの時間の人が多いんだと思う、と教えてくれる。



知ってる人はそういう風にしてる、ってことなんだろうな‥‥‥。

東京、すごい‥‥‥‥。



さっき入る時も、「2時間待ち」と書かれたプラカードを持ったスタッフさんが、最後尾に立っていたし。

隣のチケット持っていない人の列はもう見たこともないくらい幾重にも折り重なっていて、
アトラクションに乗るまでも待っているのが大変そうだ。




もしかして、全部のアトラクションがこんな感じなのでは‥‥‥‥?


東京のテーマパークって、すごいんだなぁ‥‥‥‥。


🔸


6月半ばではあるけれど、今年は気温がやけに低くて、昼間も長袖で丁度いいくらいだ。

これで暑かったりしたら、2時間も3時間も待っている方が厳しいんじゃ‥‥‥。

____と考えてゾッとする。






「____どしたの?」


「いえ、なんでも‥‥‥」


「てか、そういう情報はどっから来る訳?」


「フォロワーさんに教えてもらった!!」とスマホ画面を見せる。


「ほぉ〜‥‥‥」


「____いずみん、興味無いんじゃないの?」


「こういうとこ好きなヤツ、お前の他にも居るんだなーって‥‥‥」彼女の画面に映し出された写真を流し見て言う。


「酷くない!?結構有名だもん!!」私が変みたいじゃん、と口を尖らせている。


「そりゃ知ってるけど‥‥‥」


「今日って、この後どこ回るの?」後ろの方で、桜庭君が地図を広げる。




笑菜ちゃんが取ってくれたのは、チケット売り場の位置から左側にあるアトラクションだった。

他にも色々あるけれど、名前だけではどんなアトラクションなのか分からない。



「んー‥‥‥この後のヤツが絶叫系だから、他はしばらく、ティーカップとかの落ち着けるやつにしようかなぁって」


「いいねー」




「____でも、ここからだとティーカップは遠くないですか?」

地図を見る限り、最後のアトラクションからぐるっと回った反対側にあるみたい。


🔸
「何言ってんのシノちゃん!!」


「‥‥‥?」


「この間にお店回ったり、食べ歩きするんだよ!!」


なるほど、そういうことか。


「いっぱい食べたいものあるんだー!!」全制覇したい!!と意気込んでいる。


「太るぞ‥‥‥?」


「‥‥‥でも、集合は19時ですよね?」それまでに全部回れるのかな‥‥‥。


「うんっ!!だから、それまでに回れそうなとこリストアップしといた!!」泉君の手をつねりながら言う。

いつのまにか、もう片方の手でスケジュール帳を開いていた。



カラフルな付箋がたくさん貼ってある。

今日のために予定立ててきたのかな‥‥‥。

そう思うと、なんだか微笑ましい気持ちになる。



「____何食べたいの?」


「今はシーズンじゃないから、もこもこサイダーとか、チュロスとか‥‥‥‥」聞くと、季節やイベント限定の食べ物が売っていたりするみたい。



そんな話をしている間に、列が動いて、あっという間に搭乗口へ。

途中の通路にも、家具や道具があったり、人形が動いたりしていて、待っている間も楽しかった。

🔸

「もう終わっちゃったー!!」楽しかったね!!と黄色が光る。


ボートで回るだけのアトラクションだったけど、
突然人形が動いたり、ボートが沈みそうになったりして、仕掛けがたくさんだった。

作品は知らなかったけど、結構楽しかったな‥‥‥。



「次、どこ?」


「このまま出て、右に行ったとこー!!」





少しして、出口が見えて来た。


眩《くら》ませた光に慣れると目の前に現れた、ピンク色のレンガの道。

沢山の人が行き交うのを見ていると、自分が現実ではないどこかにいるような気がして‥‥‥。

「夢の国」の意味が、少しだけ分かった気がする。






「次はここだよー!!」

彼女が指差したのは、ファンタジーな世界観とはかけ離れた、近未来な建物。



「すごいですね‥‥‥」まるでSF映画に出てきそうな‥‥‥。



ファストチケット用の列に並ぶと、すぐ中に通された。

かなり人気みたいで、隣の列の最後尾には「3時間半待ち」と書かれていた。


🔸

「どんなアトラクションなんですか?」


「んとねー、スペースシャトル!!」


「スペースシャトル‥‥‥」宇宙‥‥‥?


「暗いとこを、びゅーんって行く」


「ジェットコースターな」


「シノ、平気?」


「乗ったことはないですが、おそらくは」



『アクセサリーやメガネを取ってください』というアナウンスに、付けていたヘッドホンとメガネをリュックに慌てて押し込んだ。

ちょっとだけ目の前がぼやけている。



「見える?シノちゃん」


「はい」



このくらいは、いつも通りだ。

____ただ、周りが暗いせいで、顔の判別は出来なくなってしまうけど。




「おぉ‥‥‥お嬢がメガネしてねーの初めて見た」こっちもいいじゃん、と言われて、なんだか恥ずかしくなる。


「____んじゃ、おれ麻ちゃんの隣なー」さも当然のように、泉君が笑菜ちゃんの隣に立った。


🔸

「なんでよ、シノちゃんと乗りたかったのにー!!」


「お前が叫んだらうるせーからだよ!!」


「ええー‥‥‥」




スタッフさんの合図で、安全ガードを下ろす。

私の身体が小さいせいでかなりガバガバなんだけど、大丈夫かな。




「それじゃ、行ってらっしゃーい!!」


快活な赤色の声かけと共に、ジェットコースター‥‥‥じゃなかった、スペースシャトルがガラガラと移動していく。







スペースシャトルというから、てっきりロケットみたいに上に打ち上がるものかと思っていたけど、横に移動するんだなぁ‥‥‥。

なんてぼんやり考える。



普段、あまりSF小説は読まないせいか、知識が乏しい。










ピンクと青の光を抜けると、目の前のシャッターが上がる。


キラキラとした星空が目の前に広がった瞬間、私は暗闇の中に吸い込まれた。

🔸

「あー、楽しかったー!!」



黄色の声で、ふと我に返る。

いつの間にか終わっていたみたい。






「シノ、平気?」近くで、卯の花色がにじむ。


「はい‥‥‥」なんだかまだ、目の前がぐるぐるしているような‥‥‥。






リュックリュック‥‥‥と探していると、「それ、俺の背中だよ」言われてしまう。



「あれ‥‥‥?」






「お嬢のはコレ」はい、と泉君がリュックを渡してくれる。

チリン、と鈴の桃色が見えて、私のだと分かる。



「ありがとうございます」中を弄《まさぐ》って、ヘッドホンとメガネを取り出す。

視界がクリアになると、「お疲れ」と泉君が顔を覗かせた。



「気持ち悪くない?平気?」笑菜ちゃんが、心配そうな表情で見てくる。


「それは、大丈夫です‥‥‥」





変な方向に揺られて、ぐるぐる回転した後みたいにはなっているけど。

歩いているうちに、少しずつ回復してきた。



「次はトロッコ電車だよー!!」


「でも、シノ大丈夫かな‥‥‥」


「もう平気です」






さっきは暗闇で景色が見えなかったから、思ったのと違う方向に振り回されたせいだと思う。


今度は普通の、外のジェットコースターだから大丈夫‥‥‥。





____と、思っていたんだけど。



🔸

「楽しかったねー」


「はい‥‥‥!!」


ジェットコースターからの景色が忘れられなくて、興奮が収まらない。





____一方で。



「大丈夫か‥‥‥?」


「うええええ、もう無理ぃ‥‥‥‥」

「ぐるぐる回ってる‥‥‥‥」




私たちの後ろには、そう言って泉君の袖を掴んで離さない笑菜ちゃんの姿が。









「もうジェットコースターやだ‥‥‥‥」


「分かったから、この辺座ってろって」


「‥‥‥‥うん」


「水いるか?」


「飲んだら吐きそう‥‥‥‥」


涙目になっている笑菜ちゃんの背中を、泉君がさすっている。




「今度は麻ちゃんがダメだったの?」なんか意外だね、と桜庭君が不思議そうに言う。


「らしいな。高所恐怖症だって」


「‥‥‥‥え!?」そんなまさか。


「今までは実体験じゃなかったから平気だったんだと」もうこれは仕方ねーな、とお兄ちゃんの表情《かお》になる。


🔸



さすがに動けないので、そのまま彼女が落ち着くまで待機することに。


「大丈夫になったら言ってくださいね」


「ん、ありがと‥‥‥‥」さっきより楽になってきた、と笑顔になる。


「無理すんなよ」


「んー‥‥‥‥」


「どうしますか?アトラクション‥‥‥」


「こいつ、しばらくこんなだと思うから、お土産とか見ててもいいと思う」


「だね」


「大丈夫だって‥‥‥」


「じっとしてろよ、具合悪いんだから」それでも動きたそうにする彼女に、仕方ないなぁ、という目線を向けている。


「出店見て、ゆっくりしてから決めようか」もうチケットないし、アトラクションも待つからちょうどいいと思う、と桜庭君が案を出した。


「んじゃ、それで」






それから一息ついた頃、近くの出店を見に行くことになった。



「わぁ‥‥‥‥‥!!」



目の前には大きなパラソルのついた出店。

頭につけるカチューシャや帽子以外にも、ポーチやチケットケース、ランタンなどが並んでいた。


私の横で、笑菜ちゃんが「かわいい!!かわいい!!」とはしゃぎだして、泉君に止められている。


🔸

「写真撮るなよ?売り物なんだから‥‥‥」


「分かってるよ!!」




返事をしながら、いそいそと帽子を選んでいる。

さっきまでの具合悪そうな感じはどこかに吹き飛んでいた。

時々良さそうなものを見つけて、泉君に被せている。



「奏もシノちゃんも選びなよー!!」







桜庭君はというと、近くのステッキを手に取ってくるくるしている。


私も近くにあったランタンの電池をつけてみる。

昼間だからよく見えないけど、♥️の形が地面に浮かんでいた。



なんだか不思議‥‥‥。






「なんで、光るのが売ってるんでしょう‥‥‥?」


「夜にパレードあるからだよ」知らない?と私を映す。


「お祭りですか?」


「昼と夜にあるんだよね」確か4回くらいだったかなー、なんて言って、近くにあるぬいぐるみを触っている。




「‥‥‥どう?」


🔸


「へっ‥‥‥‥?」




言われて見てみると、ピンク色のクマ耳のカチューシャを持った桜庭君が映る。


えっと‥‥‥‥?




「桜庭君、女の子になりたいんですか?」


「え!?いや、違うよ‥‥‥」


「____え」


「シノ、似合うかなぁ、って‥‥‥」


「えっ!?あ‥‥‥‥《《%size:10px|そう、でしたか》》」私、とても失礼なことを‥‥‥。




「おおー✨これかわいいー!!」向こう側で、同じカチューシャを持った笑菜ちゃんが映る。


「奏もこれにするの!?」キラキラした瞳をこちらに向けてくる。


「これかわいいなぁって」


「みんなでお揃いにしようよー!!」せっかくだし!!と泉君にもカチューシャを渡している。





「ええー?これ?」おれ男なんだけど、と抗議している。


「大丈夫大丈夫!!今だけだし‥‥‥」




こそこそ、と耳打ちされると、「まぁ、そうか‥‥‥」となぜか納得して受け取った。


いったい何が‥‥‥。




「俺も?」


「そう!!」




🔸


「うーん‥‥‥」と恥ずかしそうにしながらも、まぁいいか、と最後には納得して、4人で同じものを買うことになった。




「おお‥‥‥✨」いずみん似合うじゃん!!✨と、オレンジ色が光る。


「ほんとだ」意外‥‥‥、と桜庭君もビックリしている。


「てか、何でお前は普通に似合ってんだよ!?」




桜色のもこもこな生地のカチューシャ。

耳の部分は少しキラキラしていて。

ピンク色のリボンが付いているんだけど。





「____え、俺?」



桜庭君にはこれでもかというくらい似合っていた。

ピンク色が似合うのかもしれない。

声も、薄い色だし‥‥‥‥。





「みんなも似合ってるじゃん」


「そういうことじゃなくて‥‥‥」


「いゃあ、奏に言われちゃうと照れるよー!!」言いながら、私の髪を触る笑菜ちゃん。


「あ、あの‥‥‥?」


「ん?」


「さっきから何ですか‥‥‥?」


🔸

「いつもの髪型だとなんかなぁって思って」


「それ、私の髪の毛です‥‥‥」


「‥‥‥そうだよ?」する、とみつあみに付いていたゴムを解く。


「え!?」ち、ちょっと、あの‥‥‥‥‥。




泉君が止めてくれると思ったのに、今回は何も言わない。

それどころか、「好きにさせてやれよ」なんて言われてしまう。





「わ、分かりました‥‥‥」



男子2人が話している間に、みつあみが解かれて、また編み込まれていく。








「____痛くない?」


「あ、大丈夫です‥‥‥‥」



体育祭の時の泉くんも、笑菜ちゃんも、他人《ひと》の髪結わくの上手だなぁ‥‥‥。



「なんだか、美容師さんみたいですね‥‥‥」


「ええ?そぉかなー‥‥‥」



後ろを振り向かなくても、その黄色が眩しいから分かってしまう。

なんだか私まで嬉しくなる。





「さ、でーきたっ✨」ヘッドホンの代わりにカチューシャを被せられた。


「おお、」いい感じじゃん、と泉君が覗いてくる。

🔸

「どんな感じになってます‥‥‥?」


「あ、撮ってもいい?」


「はい‥‥‥」




ぱしゃ、と音がして、桜庭君が画像を見せてくれる。

そこに写し出された後ろ姿は、まるでヘアスタイル雑誌に載ってる写真みたいで。


「す、‥‥‥ごいです」


ここまでしっかりやってくれると思わなくて、思わず声が漏れた。



「ヘアゴムあたしのだけど、部屋一緒だからいいかなと思って使っちゃった!!」

言われて見ると、後ろに垂らされたみつあみの先にリボンが乗っていた。


「編み込みできるんだ?」どうやらみつあみではなかったらしい、と泉くんの一言で気付く。


「他の子にはできるの!」自分じゃ無理だけど、と席を立つ。


「ありがとうございます」


「うん!!楽しかった!!」


「これからどうするんですか?」


「何か買いたいなぁ‥‥‥‥、お揃いのTシャツとか!!」こんな感じで!と見せてきたスマホ画面には、お揃いのコーディネートをした女の子達の姿。


「普段も着れるやつがいいんだけど‥‥‥」


「着れなかったら、パジャマにしよ!!」ここの通り進んですぐだしさ!!と泉君の首を掴んで引っ張っていく。

🔸

「おおお✨すごーい!!!」


後を追ってお店に入ると、黄色をキラキラさせながら、お店の中を行ったり来たりしている笑菜ちゃんが。





「服も売ってるんですね‥‥‥」


てっきりお土産用のお菓子や小物だけだと思っていた。





「いずみん、それ買うの?」


目が覚めるようなスカイブルーのTシャツを眺めている泉君。




「____あ、いや、こういうの買うヤツが要るのかと思って」と商品棚の向こうに視線を向ける。

彼女の手にはもう10着くらい服がかかっていて、全部違う種類みたい。



「よくやるよな」と萌黄色がにじむ。


洋服の他にも、出店にもおいてあったカチューシャや帽子も並んでいる。サングラスまで。




ぐるっと一通り回ったところで、
腕のTシャツを減らした笑菜ちゃんが、こっちに駆け寄ってきた。

🔸
「どれがいい?」



デザインはどれもシンプルなものばかりで、
「TOKYOって書いてあるのはなー」という泉君の意見で、紺色のTシャツに決まった。

色々な色が入ったクマのシルエットがお腹に描いてある。

サイズは基本的に、男女どちらも着れるみたい。





「あたしこれにしよー」


「そんなに大きいのなんですか‥‥‥?」それは男性用では‥‥‥。


「ちょっと大きいくらいがちょうどいいんだよー!」とにこにこしている。


桜庭君でもぶかぶかするかもしれないくらいのサイズだと思うんだけど‥‥‥‥。


「それにほら、腕捲《まく》ったときに手首細く見えるとか、大きい服だと身体も細く見えるじゃん?」


「そ、そうなんですか‥‥‥?」笑菜ちゃんはそんな必要ないと思うけど。


「奏もそういうの好きだと思うよ!!」いつも萌袖だし!!とLサイズを強引に渡してくる。


桜庭君はそういうのではないんだけど、それはまだ秘密なんだよね‥‥‥。





「普通のよりちょっとサイズ大きめだから、シノちゃんはこのくらいでいいんじゃないかな?」


「大きい、ような‥‥‥‥‥‥」



「大丈夫大丈夫!!」

奏もこれ着たらかわいいって言ってくれるって!!とキラキラの瞳を向けてくる。




まぶしい‥‥‥‥‥‥。


🔸



「んじゃ、あたしこれ買ってくんね!!」と先にレジへ行ってしまった。






着れなかったらパジャマにすればいいって言ってたっけ‥‥‥。







念のために鏡で合わせてみたけど、少し袖が長すぎた。

手が全部隠れちゃった。



流石に不恰好になりそうだったので、Mサイズを手にレジへ向かった。











外へ出ると、「こっちこっち」と手を振る笑菜ちゃんが見えた。




「すみません、遅くなりました‥‥‥!!」


「んーん!!平気!!」


「あれ‥‥‥?2人はどこに‥‥‥」


「いずみんは向こうのお店見てくるって。奏はトイレに着替えに行ったー」


わざわざトイレで着替えなくてもいいじゃんね?なんて言っているけれど。

まだ彼の中では、恥ずかしいってことなんだろうな‥‥‥。




「もう着たんですか?」


「うん!!似合うでしょ!!」くるっとその場で回転する。


「かわいい、です‥‥‥」スカートの中が見えそうでハラハラした。


🔸
「シノちゃんも着ようよー!!」タグ切ってもらった?と聞いてくる。


「はい」そのまま着ていきますか?って言われたから。




「はいっ!!じゃー脱いでっ!!」


「____言い方」いつの間にか、泉君が笑菜ちゃんの隣に。

軽くチョップされただけなのに、びっくりして跳び跳ねた。


「‥‥‥なに、もー!!」びっくりするじゃん!!と彼の手をバシバシ叩いている。




着ていたカーディガンを脱いで、ジャンパースカートの上身《うえみ》ごろを外す。

半袖になると、やっぱり少し肌寒かった。





「‥‥‥‥」うーん‥‥‥‥。






着てみたけど。

笑菜ちゃんの言っていた通り、いつもよりちょっとサイズが大きい。

指まで隠れそう。

これでも、サイズ小さくしたんだけどなぁ‥‥‥。




「シノちゃん、やっぱ大きいね!!」


「はい‥‥‥‥」身長が小さいせいかもしれない。


「でもそれがかわいい‥‥‥!!」と抱きついてくる。苦しい。
🔸


「____あ、奏戻ってきた!!」




ぱ、と私から離れたお陰で、一気に空気が入り込んでくる。

危なかった‥‥‥。


「大丈夫か?」ごめん、と泉君が隣で心配してくれる。





「おかえり!!」似合うね!!と視界の向こうで桜庭君の周りをぐるぐるする。


「心配だったけど、意外とね」


大きめのサイズって言ってたけど、彼は普段とあまり変わらなかった。




「店員さんに男女OKのおすすめ聞いてよかったー!!」とにこにこしている。


黄色が眩しい。







「いずみん、寒くないの?」


「折り返さねーと、袖が長くて‥‥‥」


「俺は寒いから、このままで」よく袖邪魔にならねーな、と言われている。


「いずみん、なんか買ってたの?」


「目星つけてただけ。まだ買うの早いし‥‥‥」


「終わるくらいに、また買いに来る?」


「____いや」店員さんに聞いたら、明日のとこでも同じのあるって言われたからさ、と歩き始める。


「ほんと、お土産選び慎重だねー」とにこにこしている。


「弟妹《あいつら》が気に入りそうなやつがいいからさー」と薄桜色が浮かぶ。楽しそう。


🔸

「次、ティーカップだよね?」


「うん」


「今、30分待ちだって!!」


「なんでそんなん分かんだよ」


「アプリ入れたの!!」どやっ✨と見せられたスマホ画面には、各アトラクションの待ち時間の表示が。


「こんなのがあるんですね‥‥‥!」便利‥‥‥。



「人気のヤツだと待つの長くなっちゃうから、あんまり並ばないところから回ろうかなって!!

ここ広いし、めっちゃ混むし、めっちゃ並ぶんだよ!!」

さすが東京‥‥‥!!と瞳をキラキラさせる。





向かう途中でイチゴミルク味のポップコーンを買って、目的地に向かう。


ピンク色のポップコーンなんて、なんだか不思議。

口の中に入れると、優しい甘さが広がる。
少しだけ酸っぱさが後を引いた。

そこまで味も濃くないから、永遠に食べられそう。


他のところにもポップコーンが売っていて、場所ごとに種類が違うみたい。

地図に種類が書いてあるから、食べ終えたらまた後でみんなで回るのもいいかもしれない。


🔸
「おーし!!到着ー!!」


順番が来るなり、私の手をつかんで目の前の緑色のティーカップに押し込まれた。

他の班の子も、グループで乗っているのが見える。

スタッフさんの案内でベルトを閉める。




あれ‥‥‥?


ティーカップって、ベルトするほど激しいアトラクションだっ____。




音楽が鳴り始めると、待ってました、とばかりに中央のハンドルをぐるぐる回し始めた。

男子2人が乗る隣のティーカップも、ものすごい早さで回転しているのが、揺らぐ視界の端で見えた。




音楽が止んで、爆走していたティーカップ達が止まる。

「うぅ‥‥‥」目の前が‥‥‥。

反動でくらくらする。



一緒にハンドルを回していたからそこまででもないけど、もう火花が散るんじゃないかってくらいに回っていたと思う。

ハンドルを回していた手が熱い。



スタッフさんがドアを開けてくれて、2人でティーカップを降りる。

少しだけ足元がふわふわする‥‥‥。


🔸
こ、これが‥‥‥‥東京のティーカップ‥‥‥‥。


思っていたのとずいぶん違った。

スピードも可動域《かどういき》も倍近くあった気がする。

ステージも回転しているのに、ティーカップも右往左往にぐるぐる回転するせいで平衡《へいこう》感覚が‥‥‥。



今まで私が経験してきた遊園地のティーカップは何だったんだろう‥‥‥?

と思いながら、4人でその場を後にした。







「シノちゃん、酔わなかった?」


「はい、平気です‥‥‥」思ったより激しかったけど。


「回しすぎて手熱くなっちゃった」と隣で手のひらをパタパタしている。


「や、あんだけ回さねーと乗った気しねーって!!」珍しく、泉君の表情が生き生きしている。

なんだかんだ、こういう所は好きなのかもしれない。




「次、どうしよっかー」


「あ、あれ行きたいです」さっきから気になっていた、パステルカラーの建物。

よく見ると、所々くるくる回ったり動いたりしている。




「あたし、マジックショーが見たーい!!」


「おれは何でもいい」


🔸
「近いとこから回ろう」ということで、私の希望が先に通った。


「____あ、もう行ったらすぐ入れるみたい!」


「おー!!やったな」ポリポリとポップコーンの残りを食べている。



「暗いところを進むみたいだね」



桜庭君の地図を覗き込むと、暗闇の中が色とりどりのライトで照らされているのが写真に写っていた。
 


外観と中身でこんなに違うんだ‥‥‥。

中は明るい感じなのかと思っていたけど、
考えてみたらどのアトラクションも中は暗いのが多い。






お城みたいな建物の中に入ると、そのまま搭乗口に通された。



「わーい!!VIPだぁ!!」黄色が光る。

他にお客さんがいなかったせいで、4人で貸しきりだった。



遊園地みたいな楽しげな音楽。

周りには、動く人形や建物。

見ているだけでも楽しい。
🔸

最初に乗ったアトラクションもボートで進むものだったけど、かなり雰囲気が違う。

こっちはストーリーをなぞるというよりは、見て楽しむ感じ。




「へー!!この中ってこうなってるんだ‥‥‥!!」隣で瞳をキラキラさせる。


「動画では見なかったんですか?」


「楽しみにしたくて!!来てから乗ろうと思ってたんだよね!!」


へぇ‥‥‥。


「てっきり、全部見てるのかと‥‥‥」


「そんなことないよ!!楽しみなやつは取っとく!!‥‥‥《《%size:10px|シンデレラのお城は見たけど》》」



話している間に、中間地点らしいところまで来た。

今までカーブしていた道が、まっすぐになって、今までよりもゆっくりボートが進んでいく。

照明が変わる度に音楽も変化していて、なんだか楽しい。





「____そういえばさ」


薄くにじんだ卯の花色が見える。




「‥‥‥何ですか?」


「シノって、音に色見えるんだよね?」なぜか、はちみつ色が光って見えた。


「はい‥‥‥」急にどうしたんだろう‥‥‥?





「音楽にも、見えたりする?」


🔸
「音楽‥‥‥」



私が呟くと、彼が瞳をキラキラさせて見てくる。

初めて色の話を打ち明けたときのことを思い出した。









____そうだった。





____この景色は、私にしか見られないんだ。







ふと、そう思った。










____でも今、

ここにいる私は、

「へん」でも「おかしい」でもないことを、私は知っている。







私は私でいいって、言ってくれた人たちだから。





私の視《み》る景色《せかい》を、否定しなかった人たちだから。











ここに入ってからずっと流れている曲。




黄色、ピンク、オレンジ、紫‥‥‥。







どれもぼやけていて、

オーロラみたいに色が混ざって不規則に変わってしまうから、「この色」という断定は出来ないけど。


視界に浮かんでくるのが多いのは、この色。

🔸

「1つずつ、ハッキリ見える訳ではありませんが‥‥‥」



そう前置きして伝えると、

瞳をキラキラさせて「そうなんだ‥‥‥!」と相づちを打つ。



「いつもはハッキリ見えるのか?」そいや、今まで聞いたことなかったけど‥‥‥、と泉君が言う。


「人によって、ハッキリしてたり、ぼやけてたりします」


「へー」そーなのか‥‥‥!!と興味深そうな表情《かお》をする。





しばらくしてボートが曲がり、また最初と同じようにカーブして、ジグザグに進んでいく。



「____お、そろそろ終わりっぽいな?」



音楽が緩やかになってきた。

人形たちが出入りしながら、こちらに小さな手を降っている。

どうやって動かしてるんだろう‥‥‥‥‥‥?





「音に色見えるって言うから、ハッキリ見えるんだと思ってたよー!!」

そいや、前に見え方教えてくれたときも、薄い色がたくさん浮かんでたもんね!!と言ってくれる。



覚えててくれたんだ‥‥‥。うれしい。







そのうち視界が開けて、ゴール地点が見えた。



なんだか随分長いこと乗っていたような気がする。

不思議‥‥‥。


🔸

「楽しかったね!!」


「なんか子供向けぽかったけどな」


「こういうのも意外と楽しいね」


「だなー」


「こういうとこもあるんだね!!」と黄色が光る。


「なんだ、随分楽しそうじゃん」子供向けなのに、と笑う。






「____んー、だってさぁ」


くる、と前を向き直る。





「今までこういうの、家族でも来たことなかったから」


なんだかその後ろ姿が、急に小さく見えた。





「‥‥‥」


「‥‥‥‥‥‥なんか、ごめん」


「____って、やだなー!!もー!!今楽しいんだからいいの!!」




「それより、マジックショーの次どれにするっ?」

早く並ばないと乗れなくなっちゃうからさー!!とスマホと地図を見始める。






楽しみにしてた理由って、そういうことだったんだ‥‥‥。


私も、泉君も初めてだけど。


笑菜ちゃんの「今日《はじめて》」は、どれだけ貴重なものなんだろう。






「____シノちゃん?」


「は、はい‥‥‥!!」


「どれがい?」こっち来なよ、と手招きする。




笑菜ちゃんにとっても、すてきな思い出になるといいな。